「善意」が通貨でめぐる島。宮古島で出会った心地よい未来のつなぎ方

沖縄本島から南西へ約300km、エメラルドグリーンの海が人々を魅了する宮古島。この島は今、「脱炭素先行地域」として、エネルギーの自給自足を中心にサステナブルな取り組みを積極的に行っています。
でも、なぜ宮古島で……?そんな活動の背景や現状を探るべく、行政、クリエイター、そして人々が集うホテルの視点から、宮古島が描く「千年先の未来」の形を覗いてみました。
千年先の、未来へ。市民と育む「エコアイランド宮古島」の挑戦
「宮古ブルー」の海に囲まれ、豊かな自然に恵まれた宮古島。しかし、その裏側には離島ならではの切実な課題があります。宮古島市役所の「エコアイランド推進課」は、この美しい島を次世代へ引き継ぐため、行政と市民が一体となった島づくりを推進してきました。
宮古島における環境保全の歩みは、地下水への危機感から始まりました。かつて大規模な干ばつや自然災害に苦しんだ歴史を持つこの島では、本土復帰後のインフラ整備により生活が豊かになる一方、人口増加や農業開発などにより地下水汚染が深刻化しました。1990年頃には、「このままでは飲み水がなくなる」という強い危機感が市民の間に広がったのです。

これを受けて2008年、自然環境を守る意志を初めて公に示した「エコアイランド宮古島宣言」を発表。2018年には、より市民のエコアクションに対する醸成を図るべく、各宣言文の主語に「市民は」と加えた「エコアイランド宣言2.0」を策定しました。市民参加のワークショップを経て決定した標語は「千年先の、未来へ」。スローガンには、住み続けられる豊かな島を目指すという島民たちの強い決意が表れています。
地産地消のエネルギーと、善意が循環する島経済
島民約5万5千人に対して、8名のエコアイランド推進課。少数組織でありながら、環境保護だけでなく、エネルギー、経済、教育を統合した「島独自の持続可能な仕組みづくり」の役割を担っています。
そんなエコアイランド課が特に注力しているのが「エネルギーの地産地消」。離島である宮古島はエネルギーを島外に依存しており、その輸送コストや、台風などの災害時にインフラ遮断のリスクを抱えています。現在、再エネ自給率の約70%を太陽光発電が担い、EVの普及やカーシェアリングといった省エネによる脱炭素の取り組みも加速させています。
さらに、現在宮古島は、観光の急成長に伴うオーバーツーリズムや家賃高騰といった課題にも直面しています。そこで、「ホテルにお金が落ちても、地元が潤わなければ持続可能ではない」という考えのもと、エネルギーや経済を島内で循環させ、地元の生活を守る仕組みづくりを模索しています。

宮古島で生まれ育ったエコアイランド推進課の垣花さんは次のように語りました。
垣花さん:「宮古島の最大の魅力は、海だけでなく「人」にある。古くから厳しい自然環境を共に乗り越えてきた島民には、損得勘定抜きで助け合う「ゆいまーる(相互扶助)」の精神が根付いています」
そうした宮古の人々の精神を形にしたのが、独自の地域コミュニティ通貨「理想通貨みゃーく」です。「島にいいコト」をした人に贈られ、協力店舗でサービスが受けられるこの仕組みは、民間との対話の中から生まれました。ビーチクリーンなどの活動を通じて「想い」が島を巡るこの通貨は、デジタルの仕組みを超えた、島独自の「繋がりの深さ」を象徴しています。


「コミュニティが存続しない限り、どんな仕組みも回らない」エコアイランドの根底にあるのは、島を愛する人々の想いです。宮古島が環境保全や資源循環の先駆者となることは、世界中の同じような課題を抱える離島にとっての希望となるはず。千年先も透き通る海と、温かい笑顔が絶えない島であるために。宮古島の挑戦は、市民一人ひとりの手によって、今日も一歩ずつ進められています。
「すてき!」から、人は動く。島の色編集部がクリエイティブで挑む仕掛けづくり
この行政の動きを、市民の日常へと繋ぎ直したのが、宮古島の広報誌「島の色」を発刊する「離島未来ラボ」の代表・大島康生さんです。クリエイターである大島さんは、堅苦しくなりがちな「環境問題」を、誰もが参加したくなる「文化」へと塗り替えるべく、行政の報告書やウェブサイトのデザインを徹底的に磨き上げました。
また、市民が「すてき!」「これなら参加したい!」と思える見せ方にこだわり、理想通貨「みゃーく」の運用もデザインの力で「お洒落なアクション」に変えています。

さらに、離島未来ラボは、事業者の環境への取り組みを可視化する「宮古島市エコアクション・カンパニー認定制度」の設計と運用を企画。民間と行政の垣根を超えて、二人三脚で島の未来を見据えた取り組みを続けています。
大島さん:「エコアクション・カンパニー認定制度は、島の未来のために具体的なアクションを宣言・実践する事業者を応援する登録制度。単なる環境保護だけではなく、ビジネスを通じた地域貢献を可視化することで、地元企業、観光客、行政が一体となって島を守る仕組みです。地元の工務店からバス会社、個人商店まで参加しており、『島のために行動する企業経営』を目に見える形にしています」
街を遊び尽くす「拠点」になろう。――HOTEL LOCUSが掲げる、島まるごとリゾート
そんな島民の熱量と、観光で訪れる人々を繋いでいるのが、宮古島平良港に面した「HOTEL LOCUS(ホテル ローカス)」です。沖縄UDSが運営するこのホテルのコンセプトは、島全体をリゾートとして見立てた「Step into Miyako」。HOTEL LOCUSは、ホテルを寝る場所ではなく、島を冒険するための拠点と捉え、ゲストを積極的に宮古島の街へ、海へと送り出しています。

ホテルの1階には、スタッフが自ら集めた情報を集約した「アクティビティラウンジ」があり、ゲストはここで地図を眺めながら旅の目的地を決めることができます。マリンアクティビティやナイトツアーのほか、島のおじい・おばあと一緒に野草を摘んで調理して食べるといった、地域の人々の暮らしに触れる体験もできます。
さらに、HOTEL LOCUSが大切にしていることの一つが、地域とのつながり。「島の方と出会うきっかけがあるホテル」を目指し、島にゆかりのある生産者が出店するマルシェ「ローカスパーラー」が定期的に開催されています。観光客と島民が集い、交わる。そんなコミュニティも生まれているといいます。

そんな地域との接続を大事にするHOTEL LOCUSが、もう一つ意識していること。それが、サステナブルを身近にすることです。その象徴となるのが「ワンハンドクリーン(片手分のごみ拾い)」。 観光客の方に対して、「海で遊ぶついでに、片手分だけごみを拾ってきませんか?」という提案をし、ごみ拾いをした人へは「みゃーく」を渡しているそう。ホテル内の売店でもみゃーくをつかって買い物ができるそうです。

地元出身のスタッフと移住スタッフがそれぞれの視点で知見を補い合う。そんなHOTEL LOCUSは、お客様目線で、日々「本当に楽しめる体験」を磨き上げていました。
自然を隠さず、共に生きる。――the rescapeが実践する「自然との共存」
HOTEL LOCUSから車で約20分。宮古島のよりディープな自然と向き合えるのが、同じく沖縄UDSのホテル「the rescape(ザ・リスケープ)」です。島の東海岸に位置するこの施設は、ラグジュアリーホテルでありながら、自然をコントロールしすぎない「自然との共存」をコンセプトにしています。

「草が生え、虫が出ることも含めて自然の一部。作り込みすぎない美しさを大切にしています」
そう話すのは、支配人の後藤淳さんです。the rescapeでは、館内やアメニティのほとんどすべてに自然物が用いられています。宿泊客が自ら調合できるバスソルトには、ハーブや島の塩を使っていたり、周囲の原生林や崖、水路はあえて手を加えず、多様な生き物たちが息づく環境がそのまま残されていたりします。

ただ、美しい景観を守るのは簡単ではないようです。冬場、海流に乗って漂着する海洋ごみは、一度の清掃で8トン(4トントラック2台分)に及ぶことも。ある日は、冷蔵庫が漂着していたこともあったそうです。それでも、スタッフやゲストによって日々ビーチクリーンが続けられています。


「一晩経てばまた漂着する。正直、毎日がたたかいです」
そう話す後藤さんは、それでも繰り返すことでしか守れないものがあり、ここに泊まることが、地球規模の課題を考えるきっかけになってほしい──そう声を漏らしました。
さらに、地域文化と訪れた人を繋ぐべく、
●琉球石灰岩を配したステージでの三線ライブ
●地元の学生をインターンとして受け入れ、島内での就職を疑似体験しながら国内外からの観光客と触れあうことで故郷・宮古島の魅力を再発見する機会の提供
●地域のスポーツクラブとの清掃活動
など、the rescapeは、手触り感のある「心地よい繋がり」を大切にしています。
後藤さん:「自然が成長していくことで、開業時よりも今のほうが雰囲気が良くなっているし、5年後、10年後はもっと魅力的になるはず。時間の経過とともに劣化するのではなく、周囲の森が深まり、建物が馴染んでいくことで価値が高まる。厳しい自然環境すらも『島の表情』として慈しんでいきたいですね」

当たり前を、千年先へ
宮古島を巡って見えてきたこと。それは、出会った一人ひとりが当事者として「未来を創っている」姿でした。美しい海を守りたいという想いはもちろん、そのプロセスを島の人たちと手を取り合い、楽しみながら進んでいく──そんな光景がありました。
その背景には、本島よりも自然環境の恩恵や脅威をダイレクトに受ける離島ならではの葛藤と、離島という規模感だからこそ行政と民間が手を取り、移住者も観光客も交わっていけるという事情もあるのかもしれません。ただ、それは「島だからできる」のではないと思います。自分たちの未来に責任を持って取り組む彼らの姿勢は、誰もが「当事者」として踏み出す勇気を見せてくれている気がするからです。
サステナブルとは何かを我慢することではなく、大好きな場所を未来に残していくために、自分ができることを積み重ねていくこと。旅先でごみを一つ拾う。地元の人の物語に耳を傾ける──そんな小さな一歩が、新しい循環の始まりになるのではないでしょうか。
那覇とコザ、そして宮古島へ、豊かな自然とそれを守る人々の想いに触れる旅に、一度出かけてみてはいかがでしょうか。