「幸せ」と「豊かさ」の答えは社員の中にある。野村不動産グループが、336人の部長・室長・店長と対話型研修を実施した狙いとは?


- お話を聞いた方
- 野村不動産ホールディングス株式会社/野村不動産株式会社 経営企画部 経営企画課 小野 寛也さん

- お話を聞いた方
- 野村不動産ホールディングス株式会社 グループ人事・人材開発部 グループ人事戦略室 村田 侑司さん
野村不動産グループは2030年ビジョンとして「まだ見ぬ、Life & Time Developerへ」を掲げていますが、この春「- 幸せと豊かさを最大化するグループへ -」という一文を追加しました。
●この言葉の真意を、8,000人を超える全グループ社員一人ひとりが「自分事」として捉えるにはどうすればいいか?
●「個人の価値観」である日々の暮らしから→担当する業務→これからの事業→その先にあるまだ見ぬ未来・・・といった「企業のビジョン」までどう結びつけていけばいいのか?
まず最初に取り組んだのは、グループの中核を担う336名の部長・室長・店長を対象とした約3時間にもわたる「ビジョン研修」でした。なぜ、かつてない規模での研修を実施したのでしょう。その狙いと中身とは。経営企画部とグループ人事・人材開発部のお二人にお話を聞きました。
「当社グループは何を目指していくのか?」多岐に渡る議論の末に見出したビジョン

小野(経営企画部):
新しい経営計画を策定するにあたり、3年前の2022年に策定された「まだ見ぬ、Life & Time Developerへ」というビジョンについて当社グループは「具体的にどういったことを目指していくのか?」という原点から議論をスタートしました。
経営陣が「将来のありたい姿は」「我々が提供できる価値とは」について解像度を高めると同時に、各事業部門でも部長や課長クラスが参加するタスクフォースを組成し現場起点の発案も取り込みました。トップダウン/ボトムアップ双方向のアプローチを重視したんです。
意見を重ねる中で、私たちグループの価値観の根幹には“個々のお客様(個人・法人)”があり、「人々の幸せと社会の豊かさを最大化していく」という方向性が自然と浮かび上がってきました。

そう語る小野さんが教えてくれたように、野村不動産グループの独自性、全社でのありたい姿、各部門での事業戦略など、多くの議論を行き来する中で行きついた言葉が、この「幸せと豊かさを最大化するグループへ」でした。
物理的な対価を提供するだけではなく、人々の生活や時間を大事にし、幸せと豊かさをさらに広げていくという、野村不動産グループらしさが詰まっているようです。
なぜ今、経営層と現場をつなぐ「部長・室長・店長」との対話が必要だったのか
新しい経営計画の発表後、経営企画部とグループ人事・人材開発部は、このビジョンを全社員に届けるための道筋を模索していました。

村田(グループ人事・人材開発部):
まず、ビジョン発表の翌日には、新井グループCEOと宇佐美役員による全グループ社員向けのオンライン説明会が実施されました。日々の業務もあるなかでリアルタイムの視聴率約50%を超えたことは驚異的ですよね。
さらに新井グループCEOと松尾グループCOOは何日もかけて各部門を直接訪問し、自分の言葉で真意を丁寧に伝えていきました。
まだまだここで終わりではありません。
経営陣の熱い想いを届けて認知・理解してもらうだけではなく、社員一人ひとりが「幸せ」や「豊かさ」を見つめ直し、その自分自身のビジョンと会社のビジョンとの位置づけを明確にすることで自分事化(共感・実践)してもらうことが重要だと考えました。
そこで、各組織のキーパーソンである部長・室長・店長の336人に対し「ビジョン研修」を計画しました。全体方針も現場も理解する皆さんを起点に、各部署のメンバーへと染みわたらせていく地道な方法です。
研修では、自らの人生や仕事を振り返り「どんな時に幸せや豊かさを感じたか?」を問い、互いに語り合いました。これはビジョンを“知識”として頭に入れるのではなく、“体験”として心に落とし込むための重要なプロセスでした。個人の価値観とグループのビジョンとの間に確かな接点を見出すことで、「なぜこの会社でこの仕事をするのか」「誰に何を提供できるのか」という問いの答えを探ってもらうことが、この研修の核心です。
結果的に3時間に及ぶ濃厚な研修になりましたが、すでに研修を終えた参加者の方々からは「もっと掘り下げてみたい」「早く部下とも対話をしていきたい」とポジティブな反応をいただいています。

設計の核は「個人起点」。自分事化への4つのステップ
村田:
いきなりビジョン実現のための自部署のアクションプランを考えて、それを自部署のメンバーと共感し合うのは一足飛びではないかと思い、研修は大きく4つのステップに分けることになりました。

Step1:個人として「幸せ」と「豊かさ」について考える
3~4名のチームに分かれて個人としての「幸せ」と「豊かさ」を共有してもらいました。「家族と過ごす時間が幸せ、娘が日々大きくなっていくのをいつまでも見守りたい」
「お客様から感謝の言葉をもらうことは何年経ってもずっと嬉しい」
など、まずは身近で具体的な幸せについて対話をし、徐々に抽象的なものに言語化していくことで次のステップにつなげました。
Step2:自部署として実現したい「幸せ」と「豊かさ」を考える
個人の体験を共有した後、思考のスコープを「自部署」へと広げ、2030年時点で、自部署として実現したい人々の幸せと社会の豊かさについてイメージを深めました。
「多様な働きかたと部下の成長」「サービスの質を高めより多くの方へ届けること」など様々な声が飛び交いました。
Step3:アクションプランを検討する
Step2で描いたありたい姿を実現するための具体的なアクションプランを考えてもらいました。「グループ間連携を活発化させて新規事業を推進したい」というような意見が出るとチーム内で対話を重ねて、アクションプランをブラッシュアップしていきます。
Step4:職場でのビジョン共感の方法を知る
最後のステップでは、この研修での学びを自部署に持ち帰り、展開するための方法論を学びました。これについては、研修の冒頭で共有された、新井グループCEOからのビデオメッセージの中にもエッセンスが含まれていました。
役職や立場に関係なく、自由に意見を言い合える環境を作って欲しい。
そのためには、
●ビジョンを表層的に伝えるのではなく、メンバーの考えや想いを傾聴することで、各自が「本来、そうありたい」と思っていることを引き出す
●部長・室長・店長自身が幸せを感じながら仕事をしている雰囲気を各組織で示す。
(話しかけやすい雰囲気をつくる・自己開示する)
といった具体的なリーダー像を共有し、組織のあり方そのものを見直すきっかけとなりました。
対話が生んだ、ポジティブな効果
3時間にわたる対話型の研修は、組織に何をもたらしたのでしょうか。事後アンケートでは満足度95.5%という高い数字が示されましたが、特に手応えを感じたのは数字の裏にある変化でした。

村田:
私たちが意図していた以上に、ビジョンを自分事化するための機会・きっかけにしていただいた参加者が多かったです。
研修で同じグループになった部長陣が「自部署メンバーへの職場MTG後、また集まって、もう一度この2030年ビジョンをより深掘りしていこう」「個社を横断して課題を共有してみよう」と次のアクションを計画したと聞いています。普段業務上のやり取りはしていても、改めて幸せと豊かさについて対話する機会はなかったと思うので、この研修が貴重な機会となっていればと願います。
小野:
日頃業務上では会話の機会がない「幸せと豊かさ」について言語化できたことで、共感や新たな気づきにも繋がった、という声がアンケートでも数多く寄せられました。 研修は限られた時間でのきっかけにすぎないかと思いますが、「実現したい幸せと豊かさとは何なのか?」という問いを持ち続け、絵姿で終わらせることなくアクションに繋げていくことが重要かと感じています。
企業の成長と個人の幸せや豊かさが重なる未来へ
変化の激しい時代において、売上や組織の拡大などの数字や規模では表しきれない新しい価値を創造していかなければなりません。
社員一人ひとりが心の中で「そうありたい」と思っていることを顕在化させることで、チームの生産性が上がり、付加価値も高まっていく。そのようなチームが増えることでグループ全体も成長するはずです。 そうすると、社員のさらなるチャレンジが生まれ好循環が続きます。
小野・村田:
2030年ビジョンに向けて、今回は私たち経営計画部とグループ人事・人材開発部が担当でしたが、法務コンプライアンス部、コーポレート・コミュニケーション部、サステナビリティ推進部等とも連携し、社員一人ひとりの「幸せ」と「豊かさ」を最大化できるように各種施策を企画・推進してまいりますので、是非自分自身のビジョンと会社のビジョンの重なり合わせを見つけていきましょう!
