まちがつまらないなら、自分たちで面白くすればいい。宮崎・都農町で進む「Uターンしたくなるまちづくり」とは?

超高齢化社会へと待ったなしの日本において、注目されている「まちづくり」。昨今では、日本各地で地域を盛り上げる様々な動きがみられています。そんななか、今回みんつな編集部が訪れたのは、宮崎県の中央に位置する都農町。そこでは、子どもたちが主役となり、地域の未来をより良くするため活動していました。
人口およそ一万人。過疎が進む都農町を拠点に、まちづくりベンチャー「株式会社イツノマ」を立ち上げたのは、中川敬文(なかがわ・けいぶん)さんです。2003年から20年にわたり、UDS株式会社(2025年4月より野村不動産グループ)代表取締役を務めてきた中川さんは、2020年に宮崎県都農町に移住。以降、イツノマの代表として子どもが参画するまちづくり、地⽅で新しいコトを起こす⼈が出会える場づくりを行ってきました。
そんな中川さんに、「教育×地域」をテーマにした取り組みのこと、まちづくりへの想いを伺ってきました。
- 今回お話を伺った方
- 中川敬文さん
東京都出身、関西学院大学社会学部卒業。1989年ポーラ入社。1993年新潟県上越市に家族で移住、当時国内最大級のパワー型ショッピングセンターの立ち上げと運営。1999年UDS株式会社入社、2003年より代表取締役。日本各地での場づくりや地方自治体のまちづくり、中高生のキャリア教育を手がける。2020年3月に社長退任し、宮崎県都農町に移住、株式会社イツノマ起業。

未来の主役は、子どもたち。主体性を育む「子ども参画まちづくり」
まちのグランドデザインや⼩中学校の総合・探究学習、まちづくりホステルの経営など、多種多彩なプロジェクトを通して、2020年から約5年間都農町にかかわり続けているイツノマ。その活動の軸にあり続けてきたのが、「教育」です。地方自治体のまちづくりや中高生のキャリア教育など、これまで各地で場づくりに携わってきた中川さんは、今都農町の公教育の現場に入り込み、未来の“主人公”となる子どもたちと共に、さまざまなプロジェクトを立ち上げています。

その一つが、都農中学校の総合学習の時間を活用した「つの未来学」という特別カリキュラム。「未来に向けて⾃ら起動する⼈材」を増やすことを目指した取り組みで、子どもたちは地域に根付いた大人たちからまちの魅⼒や課題を聞き出します。その後、職業体験を経て、まちの課題に対する解決策を提案していきます。
2021年には、つの未来学での子どもたちのアイデアをきっかけに、都農町は「ゼロカーボンタウン宣言」を表明。各校からの小中学生の選抜メンバーでゼロカーボンの推進チーム「Green Hope」が結成されました。子どもたちは毎週話し合いを重ね、年に一度議会で提言。採択されれば、予算を元手にプロジェクトに取り組んでいきます。

中川さん:「Green Hopeが立ち上がって3年目には、採択された予算を元手に毎月商店街でイベントを開催しました。『どうすれば商店街に人が来るイベントができるか』をテーマに地域の人とワークショップを重ね、花と緑をテーマにしたイベント『みちくさ市』を開催することになりました。道路アートをしたり、通りの名前を投票で決めたり、白いトラックを背景に映画を上映する夜市を開催したり。企画から司会まで、すべて子どもたちが決めて実行していきました」

地域で商いを行う人や高齢者など多様な人たちを巻き込みながら、環境も地元の人々も幸せに。企画や司会も子どもたち自身が行う
さらに、「まちづくりをもっと深めよう」という趣旨で中川さんが立ち上げたのが、地域クラブ「まちづくり部」。まちづくりに関心のある中学生が集まり、地域密着でさまざまな人と関わりながら、リアルな地域課題と向き合っていく活動です。そのなかで、活動拠点となるイツノマの本社「YARD」の空きスペースを活用すべく、メンバーたちは「駄菓子屋」の営業を始めました。

中川さん:「子どもたちは、近所の駄菓子屋のお母さんにやり方を教わりながら、仕入れから集客まですべて自分たちで行い、昨年の冬に初めてポップアップ営業を行いました。その後は、週に2日ほどお店を開けるように。背景には、まちづくりホステル『ALA』で、他校の子どもたちと合宿をするための資金を集めたいというメンバーたちの想いがありました。
駄菓子屋は想像以上に大繁盛。漫画などもありゆっくり過ごせるスペースになっていることもあって、不登校の子どもたちも来るようになりました。結果的に、まちの子どもたちや人々の居場所となったように思いますね」

「この指とまれ!」必要なのは、人やまちを動かす機動力
立ち上げ以降、「教育×まちづくり」をテーマに、子どもたちの主体性を育むさまざまなプロジェクトを仕掛けてきた中川さん。どのような想いで、まちと子どもたちと関わり続けてきたのでしょうか。
中川さん:「今の都農町の高齢化率は39%で、2050年には50%に到達するとされています。ただ、かつての卒業生で今年29歳になる110人のうち、実際にここに住んで働いているのはたった5人。では、昨年度都農町の小学校を卒業した生徒89人のうち、10年後、20年後に何人が都農町に住んで働いているのだろう──そう考えたとき、「Uターンしたくなるまちづくり」が必要だと思ったんです。
仕事があればUターンすると言う子たちはたくさんいますが、彼ら彼女らはまちに残りません。なぜかと聞くと、『つまらない町だから』と。では、まちに何が欲しいのかと尋ねると、99%がイオンやスターバックスといった大手チェーンの名前を挙げるんです。


それを聞いて、『町がつまらなくて仕事もないのであれば、自分で仕事をつくればいいし、面白くなるように変える力を身に付ければいい』と思ったんです。だからこそ、僕らが大切にしているのが、自分で事を起こして人や町を動かす『起動力』。なんとなく、子どもの頃にやっていた『良いこと思いついた!この指とまれ!』と近いかもしれません。そうやって自分で仕事をつくり、まちに帰る子どもが増えていけばいいなと思っています」
関係人口が増える「まちづくりの合宿所」に
一般的なまちづくりとは異なり、「子どもたち」が自らの未来を考えて実践していく都農町のまちづくり。そうした主体性を養うためにもう一つ大事なのが、「多様な人とかかわること」だと中川さんは言います。
中川さん:「都農町は小さいまちですが、ご近所さんなど、色々な人と接点を持つ機会がある。だからこそ、育める力があると感じています。加えて、2021年にオープンした、耕作放棄地と2軒の空き家を再生した『HOSTEL ALA』という拠点を通して、地域外の人々も巻き込み、多様な視点でまちの未来を考えていければいいなと思っているんです。

ALAは、まちづくりの合宿所というコンセプトでつくっていて、大学の観光学部や社会起業に興味のある人が授業の一環で来たり、企業や自治体の方々が新規事業を考える合宿をしたりする場所になっています。東京都にある新渡戸文化高校は、スタディーツアーで複数回訪問してくれたのですが、それをきっかけに、宮崎名物の『南国プリン』を学校の文化祭で1,000個販売してくれました。地域の外からも都農町を盛り上げる面白い動きが生まれています。
今後は、そうした形で学校との連携も続けながら、企業向けの事業にも力を入れていきたいです。自分たちが5年間地方でやってきた実感値を込めながら、地域で新規事業を生み出すための壁打ちやアイデア出しなどを一緒に行うことで、地域をさらに魅力的にしていけたら良いですね」

そんなHOSTEL ALA同様、「地域の関係人口を生み出す」宿が、鹿児島県の南東部、大隅半島にあります。廃校を活用した「ユクサおおすみ海の学校」。日本一海に近い小学校をリノベーションした施設は、学校の教室(客室)や校庭にテント泊できるほか、合宿や企業研修の拠点にもなっています。

同施設のビジョンは、「地域の幸福度を上げること」。耕作放棄地を体験農場にしたり、そこで収穫した野菜を販売したり、鳥獣被害よけに植えたショウガを使ってまちの特産品をつくったりと、地域の課題にアプローチしながら、まちの魅力をつくり、そして発信しています。宿という拠点を通してより多様な人を巻き込むことで、人とまち、そしてコトの「つながり」が生み出されている姿は、地域全体の幸福とも重なっているようでした。

人を巻き込んでこそ生まれていく、地域の魅力
都市部からは少し離れた宮崎と鹿児島のうみのまちで広がっていた、人を巻き込むまちづくり。ただ「まちを良くしたい」と願う人たちの想いが溢れるそこには、年齢や立場を超えて混ざり合い、共にまちの未来を描いていく姿がありました。
「まちがつまらないなら、自分で面白く変えていけばいい」という中川さんの言葉のとおり、自らがまちづくりの担い手として一歩踏み出す人が増えていけば、ほんの少しずつでもまちは動き、変わっていく気がしています。自分もまちも変えられる。そんなポジティブなエネルギーが流れる場所を訪れ、その空気をゆっくりと味わってみるのも良いかもしれません。