社会課題×新規事業は儲からない?14か国50事業を成功させたボーダレス・ジャパンに学ぶたった3秒で視座を変える秘策

ボーダレス・ジャパン鈴木さんの取材記事サムネイル

企業におけるサステナビリティやソーシャルグッドは、もはやコストをかけて行うボランティア活動ではないことは周知の事実です。

しかし、社会課題解決のために理想を掲げて走り出したプレイヤーが、収益化の壁や継続の難しさに突き当たり、足が止まってしまうのもまた残酷な現実です。
世界14か国で50もの事業を展開し、グループ売上高100億円を突破したボーダレス・ジャパンの鈴木雅剛さんを迎え、社会の課題を事業の競争力へ変換した具体例から、今すぐ実践できる3秒ルールメソッドまで、ソーシャルビジネスの難しさと面白さを紐解きます。

希望をつくり続けるために、ビジネスとしての利益を追求する

ボーダレス・ジャパンは福岡県福岡市に本社を置き、現在世界14か国で50の事業を展開し、グループ全体の売上高は100億円規模に達するソーシャルビジネスのパイオニア的な存在です。この数字は、彼らが単なる「善意」ではなく、自立した「ビジネス」として機能している証明でもあります。

大畑:
ボーダレス・ジャパンは、日本の社会起業家の中でも有名な一社だと思います。ひとつの事業を立ち上げるだけでも大変なのに、約50もの事業を展開しているのは本当に驚異的です。

鈴木:
ありがとうございます。ソーシャルビジネスというと、社会課題にフォーカスされがちですが、実は僕たちは「社会の課題をみんなの希望に変えていく(SWITCH to HOPE)」というパーパスを掲げていて、”課題解決”よりも”希望づくり”にフォーカスしているんです。

ボーダレス・ジャパンのパーパス「SWITCH to HOPE」の説明画像

鈴木:
そして、僕らの組織の特徴は、営利企業として既存事業で得た利益を次の社会課題解決へと投資するモデルを貫いている点です。外部資本は一円も入れず、助成金や寄付金にも頼っていません。

大畑:
いわゆる”社会課題”や”SDGs”と呼ばれる領域って、本当は取り組みたいけどビジネスとして採算性が立たず継続するのが難しいことばかりですよね。どのように利益を生み出しているのか、具体例をお聞きしたいです。

制約を競争力に変換する、「ハチドリ電力」 の仕組み

鈴木:
再生可能エネルギー100%、CO2フリーの電気を届ける「ハチドリ電力」という事業を例に挙げます。再エネ普及を加速させるため発電から供給まで一貫して手掛けていますが、実は僕らの利益は驚くほど薄く設定しています 。

大畑:
それほどの薄利で、どうやって事業を継続させているのですか?

鈴木:
取り組んでいるのは、徹底的な「見える化」です。ご利用明細書には、電気を買う費用、電気を送る費用、僕らの事業運営費などを全て公開しています。不透明であることが多い明細書を納得感に変えることで、他社にはない強みができ、「一緒に再エネ普及に取り組みたい」という共感に繋がっていると感じています。結果として、多くの利用者様が集まり、利益が出るモデルへと進化しました。

ハチドリ電力の明細
キャプション:ハチドリ電力の詳しすぎる利用明細。植林効果やCO2削減量も記載されるので、毎月の自分の貢献度も見える。

鈴木:
さらに、電気代の1%をNPOなどの団体へ、さらに1%をみんなで新しい再エネ発電所づくりに充てています。普段の生活の中で社会貢献団体に寄付するという選択や行動をとることはハードルが高いかもしれません。ですが、「自分の支払う電気代が、社会を良くする」という顧客体験のデザインを通して、人間誰もが持っているはずの優しさを、ビジネスの力で拡張していけると信じています。そんな事業を育てていきたいと考えているのです。

大畑:
小さな優しいアクションの積み重ねを続ける。まさに”ハチドリの一滴”ですね。募金箱に寄付することも、環境にいい商品を購入することも、もちろん素晴らしいことですが、その瞬間のインパクトで終わらずに、電気代のように継続的に影響を与え続ける仕組みになっているのもグッドポイントですよね。

鈴木:
そうですね。「地球や社会にいいことでも、そんな薄利じゃ継続できないじゃん!」という反論はソーシャルビジネスには付き物。でも、ビジネスパーソンの真髄って、そこで簡単に諦めずに、その制約を超えてなお利益を出せるモデルをどうつくるか知恵を絞ることだと思うんです。

不登校離職、本人と家族の葛藤を包み込む場づくり

鈴木:
次に、「夢中教室」という教育事業の例です。こちらは、学校に行きたくない、学校が合わないと感じているお子さん向けのオンライン教育サービス。学校の人間関係やルールが自分に合わなくても、夢中になれる体験や機会を見つけていく事業です。

このサービスを企業さんに「一緒に取り組みませんか?」と持ちかけました。なぜなら、企業にとっても「不登校離職」は大きな課題になりつつあるからです。

大畑:
「不登校離職」ですか。共働きが増える中で、親御さんが自分の仕事と子どものケアの両立に悩み、休職や離職を余儀なくされるケースですね。

鈴木:
自分は仕事に行かなければならないけど、子どもだけが家に残る。「学校に行きなさい」と叱ってしまい子どもも親も自己嫌悪になる。授業の代わりに自分が勉強を見てあげたいけれど、休職すれば家計がまわらなくなる。これは教育現場だけの問題では収まらず、社員のウェルビーイングに責任を持つ企業としても、今真剣に策を講じなければならない問題です。

夢中教室のSNSから抜粋した画像
「夢中教室」のインスタグラム投稿より抜粋

大畑:
企業側が、お子さんの不登校に悩む社員向けに「夢中教室」をお試ししてもらうキャンペーンをやってみたりするのも意義がありそうですね。一方で、野村不動産株式会社が提供するマンションシリーズPROUDで導入し、顧客満足度を高めるという発想もできそうだと思いました。

鈴木:
不動産事業って、実際は土地や建物というハードだけではなく、「人と人の出会いを偶然から必然に変える場作り」も肝心ですよね。

大畑:
例えば、マンションの共用部を不登校の子の学び場や地域学童として開放し、住人や近隣の方々が緩やかに見守り合う。孤立を防ぎ、地域全体の関係性のデザインを見直すことで、結果として企業価値や地域価値そのものを高めていくこともできそうですね。

鈴木:
地域の学童も人材不足で細かな対応がしきれず子どもたちがただ時間を過ごすだけになってしまっている実態も見聞きします。僕らは「小さな森の学童」という事業も展開していて、幼少期に自分の好きを見つけて伸ばして豊かな経験を育む。さらには、食事や宿題や送迎など家庭に寄り添うサポートも提供しています。

人や街の結節点を作る場づくり、これはまさに野村不動産グループらしい可能性が広がりそうです。

「3秒ルール」で、いつもの景色をビジネスの種に変える

大畑:
ボーダレス・ジャパンの50事業あるうちの数個でしたが、ソーシャルビジネスについて理解が深まってきました。

次は、「じゃあ自分たちも社会課題をビジネスに変えてみよう」と思い立った時に、どのようにテーマを見つけ、形にしていくのか。その初めの一歩を踏み出すためのヒントをください。

鈴木:
ぶっちゃけ最初から社会課題に対して「熱い志」を持っている事の方が稀だと思っているので、僕が推奨しているのは「3秒ルール」ですね。直感で3秒以内に具体化を繰り返します。

鈴木さんが推奨する3秒ルールの説明のイラスト

鈴木:
具体化していったら、次に現場を自分の目で確認することが重要です。実は貧困より孤独を理由に集まっていたり、意外と高齢者のご利用が多かったりといった実態が見えてくる。そのとき、社会課題が自分の手で触ることができるものになり、「これを解決したい」という熱い志が芽生えます。

大畑:
「こんな現状見過ごせない!」という怒りや哀しみ、やるせなさのような負の感情が原動力になることが多いのでしょうか。

鈴木:
それもありますが、「状況がこんな風に変わったら、ここに居る人たちハッピーになるよね」という”希望”を共有すると、周囲も巻き込みやすいはずです。

熱い志やハッピーな希望を前提にしつつ、ロジックも抜かりなく固める。収益性やROI、投資回収のシミュレーションは緻密に検証する。そんな「Warm Heart Cool Head(熱い情熱と冷静な思考)」の両輪が揃った時に、持続可能なビジネスが生まれるのではないでしょうか。

大企業が本気になれば、社会は大きく変わる

大畑:
野村不動産グループの社員が新しいビジネスに挑む際、鈴木さんならどのようなアドバイスをしますか?

鈴木:
野村不動産グループは、既に膨大なアセットと、志を共にできる数多くの仲間という、ベンチャーなら喉から手が出るほど欲しいリソースを持っています。前例のない手探りを押し通す苦労も社内調整の苦労もその分大きいかもしれません。しかし、小さなスタートアップには難しい規模のリソースを動かして社会的価値を生み出すことは、とても面白いことではないでしょうか。

大畑:
確かに、組織の中にいるからこそ、一気に世界を変えられるチャンスがありますね。

鈴木:
一歩踏み出すまでは不安かもしれませんが、最初はゴールがわからなくてもいいんです。まずは現場を感じて、小さなアクションをスピーディーに積み重ねていけば、その不安は消えていく。世界をスイッチさせる大きな力になるのだと信じています。

インタビュー中のボーダレス・ジャパンの鈴木さん

――鈴木さんの話を聞いて最も印象的だったのは、「最初から熱い志がなくたって、これから見つければいい」という言葉でした。社会課題の種を見つけるのは、卓越したセンスでも、高潔な人格でもなく、日々の中で感じる「これっておかしくない?」という違和感。

それを3秒ルールで掘り下げ、現場へ行き人と話すことから、少しずつ未来を切り開いていくことが始まっていくのでしょう。

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O ltd. CEO、Makaira Art&Design 代表、THE SOCIAL GOOD ACADEMIA(ザ・ソーシャルグッドアカデミア) 代表、MAD SDGs プロデューサー。
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