循環が暮らしに根付くまちから学ぶ、本当の豊かさ。日本初「ゼロ・ウェイスト宣言」のまち、徳島県上勝町レポ

記事タイトルの入ったサムネイル画像。上勝のゼロ・ウェイストホテルでのチェックインの様子

前編では鹿児島県大崎町の資源循環への取り組みをご紹介しました。後編では、2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町の挑戦に迫ります。ごみ収集車も焼却炉もない小さな町が生み出した、「資源を活かす暮らし」の知恵とは?

日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」の原点と歩み

徳島市内から車を走らせ約1時間、緑豊かな山間部にある上勝町は、人口約1,400人の小さな町です。地域の資源回収拠点である「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」を訪れ、施設運営に携わる株式会社BIG EYE COMPANYの田村浩樹さんに案内していただきました!

上勝町のゼロ・ウェイストの歴史を説明する田村さん
BIG EYE COMPANY・田村さん

ーゼロ・ウェイストセンターとはどんな場所なのでしょうか?

田村さん:ここは町内で唯一のごみを捨てることができる場所です。上勝町では過去も含めてごみ収集車が一度も走ったことがないという非常に珍しいまちですので、住民が自らこのセンターに運んできてもらう方法になっています。

ゼロ・ウェイストセンターのゴミステーション外観
ゼロ・ウェイストセンターの「ゴミステーション」。ごみ収集車が走らない不便と引き換えに、この場所が住民同士の交流の場所となっている。

ーなぜ上勝でゼロ・ウェイストの取り組みが始まったのでしょうか?

田村さん:現在、上勝町ではごみを43種類(2025年5月時点)に分別しています。これは日本の自治体の中でも、もしかすると世界でも最も細かいごみ分別を行っている自治体かもしれません。

しかし、最初から分別に積極的だったわけではありません。昔は家の庭や畑でドラム缶などにごみを入れて焼却処理する「野焼き」が当たり前で、燃やせない粗大ごみや電化製品などは土砂の集積場に不法投棄されてしまい問題になっていました。

小型焼却炉も、ダイオキシンの問題でわずか3年で使用を中止せざるを得なくなりました。予算などの制約から、町内で発生したごみの全てを「町外の民間業者に処理委託する」選択をしました。

委託コスト削減のため、上勝町は「燃やすごみを減らす」方針を採用。紙や金属は資源として売却して収入に、他の素材も分別することでコストを抑えています。

ゴミステーションに置かれた、廃プラスチックを捨てるための青色のコンテナバッグ
ゴミステーションの回収ボックスにはごみの行方や分別の注意点が書かれている:
(「その他のプラスチック」は徳島市へ運ばれ、固形燃料となり、69.8円/Kgの処理費用がかかる)

ー現在の上勝でのゼロ・ウェイストの進捗状況はいかがでしょうか?

田村さん:2003年に日本の自治体で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」(ごみゼロ宣言)を行い、2020年までにできるだけ燃やさない、埋めないようにするという目標を掲げました。 リサイクル率は約80%(全国平均20%)に達していますが、リサイクルを考慮していない製品設計のため、一部は焼却・埋立て処分しています。そこで上勝町は生産者と処理業者に協力を求め、ゼロ・ウェイストセンターを拠点に情報交換を進めています。

「どうしても燃やさなければならないもの」と書かれた、いわゆる燃えるごみを表す看板
焼却ごみ(燃えるごみ)は「どうしても燃やさなければならないもの」と表記されていた

いざ体験!「ごみを出さない」暮らしは実現できるのか?

ーゼロ・ウェイストセンターでは、「ゴミステーション」以外にどんな機能があるのでしょうか?

田村さん:隣接するホテルでは、宿泊を通じてゼロ・ウェイストを体感でき、国内外からの来訪者にも人気です。「くるくるショップ」では、住民持ち込んだ不用品を、誰でも重さを測ってノートに記録するだけで無料で持ち帰れます。年間4〜5トンのものが循環しており、毎月の持ち帰り量は掲示しています。

くるくるショップ店内。子ども服から、様々な種類のお皿やコップ、年季の入った雑貨やおもちゃなどが並ぶ
家電も子ども服も、次の持ち主を待っている

施設は回収食器をタイルに加工した床材や古家屋の窓枠を再利用し、将来解体時に素材分別できる設計になっています。照明にもガラス瓶をリメイクするなど、建物自体がアップサイクルの見本となっています。

交流ホールの室内。木の温もりを感じるあしらいで、内装や家具などにアップサイクル材が用いられている。
古材がふんだんに使われた建築
透明や緑、茶色のガラス瓶を逆さまに吊るしてシャンデリアのようにしたリメイクの照明
ガラス瓶がリメイクされた照明

ーゼロ・ウェイストアクションホテル「HOTEL WHY」ではどんな体験ができますか?

田村さん:宿泊されるお客さまに対しても「ゼロ・ウェイストアクション」として協力を求めています。

例えば、歯ブラシの持参を呼びかけたり、ほかのアメニティも必要な分だけを提供していますので、チェックインの際に滞在中に自分が使う石けんの量を予想して必要な分だけをお渡ししています。これが意外と難しいんですよ。

ホテルのチェックイン時に宿泊者が石鹸を専用の器具でカットしている様子
「チェックアウトまでに何度手を洗うか?」「1回でどれくらい使うだろうか?」など、普段考えないことを想像し、自分で石けんをカットする

翌朝チェックアウト前に、それぞれのお部屋で出たごみを上勝町の住民と同じルールで仕分けます。

「これは複合素材だから、リサイクルできない?」「レシートってどんな紙?」と、一つひとつ確認しながら仕分けること、数分。最初は理解するのに時間がかかりそうですが、慣れていくと「これはちゃんと分けて洗えば資源として売れるけれど、そのまま丸めてポイだと処分費用がかかるんだ」と頭に入って来ました。

分別体験用に並べられたたくさんのごみ箱の前に、それぞれそこに入れるごみ・資源の種類などが書かれている
一つひとつのごみ箱の説明を見ながら、細かい分別作業を行っていく

生ごみは、キエーロと呼ばれる屋外に設置された箱型のコンポストへ。土中の微生物が生ごみを分解してくれます。硬い野菜の皮やお肉の骨、卵の殻なども数週間から1,2ヶ月経つと分解できるものがほとんどだそう。

キエーロと呼ばれる60×40センチメートル程度の木の箱の中に敷き詰められた土に生ごみを入れてかき混ぜている様子
キエーロの土に生ごみを入れて混ぜていく

実際に体験してみることで、普段の買い物や調理の仕方などで工夫・改善できそうなポイントも見えてきました。

循環が価値になる社会。ゼロ・ウェイストタウン上勝が描く未来とは?

最後に、上勝のゼロ・ウェイスト推進に携わり、自らもゼロ・ウェイストなカフェ「ポールスター」を運営している東輝実さんに、これまでのプロセスやこれからの展望についてお聞きしました。

ー最初に「ゼロ・ウェイスト宣言」が出されてから約20年。上勝の現在地をどのように捉えていますか?

東さん:最初の宣言では、まず人づくりや仲間づくりを進めていこうというこから始まりました。2020年に新しい宣言が策定され、「住民の負担軽減」「経済循環」「人材育成」という3つの要素が主軸になりました。

住民の方々からは、当初「将来の子どもたちの自然環境を守るために必要なんです」という説明に「そんな未来にわしは死んどるけん」とネガティブな反応も多かったのですが、メディアへの露出も増え、都市部に住んでいる子どもや孫がテレビを見て「おばあちゃんすごいね」と電話をかけてくれるようなこともありました。そんな外部からのフィードバックが、町民の意識向上に貢献してくれたんじゃないかなと思います。

笑顔でインタビューに応じる東さん
Cafe polestarのオーナーであり、地元上勝のために地域のプロジェクトに奔走する東さん

東さん:2021年には、町民に「あなたにとってゼロ・ウェイストとは?」と問いかけたところ、リサイクルだけでなく、生き物との共生、伝統行事、棚田や森林との関係など多様な回答が集まりました。上勝のゼロ・ウェイストは、文化や伝統、自然資源を持続させる手段の一つだったんですね。

ーこれからの課題や展望について教えてください。

東さん:上勝町の人口は、1950年の6,300人をピークに、現在は約1,400人にまで減少しています。そんな中で、移住促進だけではない形で関係人口を増やしていく必要があると思っています。

一方、年間2,200人ほどの方が国内外から資源循環の現場を見に訪れており、視察で生まれたつながりを活かした連携プロジェクトのチャンスもありました。しかし上勝として何を求めているのかをきちんと伝えることができなかったり、プロジェクトを管理できる人がいなかったりで形になったものはごくわずかに止まっているという反省点があります。 きちんと情報を集約し、町外の方々とマッチングをしたり、子どもたちの声を反映したまちづくりの試みをしたりすることで、上勝で生まれ育った人々がこの町での貢献に可能性を感じられるようにしていきたいと思っています。町民の幸福度調査にも取り組んでいますが、まちづくりのこうした取り組みが幸福度として反映されるようになればと思い活動しています。

カフェ「ポールスター」外観
東さんが運営するゼロ・ウェイストなカフェ「ポールスター」

上勝町では、自生している「葉っぱ」を用いて地域の高齢者たちが「つまもの」の生産・販売を行うことで有名な葉っぱビジネスや、地元で採れる柑橘「柚香(ゆこう)」や休耕田を活用して育てた米を使ったどぶろくを楽しめるバー、ビール醸造時のモルト粕を農業に再利用した循環型のクラフトビールで知られるブルワリーなど、地元の特徴やゼロ・ウェイストを基盤にしたビジネスも生まれています。

東さんも体験型教育プログラム「INOW」を展開し、ゼロ・ウェイストの実践や地域の伝統を学ぶ機会を提供しています。循環を文化として根付かせ、価値観を受け継いでいこうという取り組みが続々と生まれていますね。

さて、ここまで鹿児島県大崎町と徳島県上勝町のレポートを通じて、持続可能な地域の未来を描くそれぞれの資源循環やまちづくりの取り組みをお届けしてきました。また次回もお楽しみに!

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