ごみ分別で共創し、価値を生み出す。日本一のリサイクル率・鹿児島県大崎町の秘密に迫る

サーキュラーエコノミー実践のヒントを探るべく、今回みんつな編集部は資源循環の先進的な取り組みが行われている鹿児島県大崎町と徳島県上勝町へ。前編では、リサイクル率日本一のまち、鹿児島県・大崎町の訪問の様子をお届けします。1990年代のごみ処理量の増加に伴う埋立処分場の問題を発端に、役場と住民が対話し続けて実現した現在のリサイクルシステムは、どのように生まれ、どのように運用されているのでしょうか?
焼却炉のない町の「もう埋められない」から始まった変革
取材班が最初に足を運んだのは、ごみの埋立地である最終処分場。地域のまちづくりに関わり、ローカルFMでパーソナリティも務めている吉留李奈さんに案内してもらいました。

ここに埋め立てているのは、資源として有効活用ができないごみ。大崎町にはごみの焼却炉がなく、集められたごみは分別して資源にするか、埋め立てるか、という2択しかないのです。「混ぜればごみ 分ければ資源」の標語が表す現実を目の当たりにしているようです。


ーリサイクルが積極的に行われる前はどのようにごみが処理されていたのでしょうか?
吉留さん:大崎町の資源循環は埋立処分場の逼迫から始まりました。2004年までの使用予定だった処分場が想定より早く埋まりつつあり、「①新たな埋立処分場を建設する」「②焼却炉を建設する」「③今の埋立処分場を延命する」のいずれかを選択しなければいけない状況になったんです。新たな施設建設のコストを避けるため、資源リサイクルによる処分場延命を選択。「ごみ」から「資源」へという考え方の大転換が起こりました。
「誰でもできる」を実現する循環システムのデザインとは?
当時の様子について、大崎町役場環境政策課の寺原健尊さんは次のように話します。
寺原さん:現在、大崎町で発生するごみは最終的に「埋め立てごみ」と「資源」に分けられ、資源は28品目あります。当初は、新たなルールや手間が増えることで住民の方々から強い抵抗がありました。細かな分別を「面倒なこと」ではなく「当たり前のこと」に変えるため、行政はとにかく住民の方々の声に耳を傾け続けました。

ーどのように住民の方々の理解を得ていったのでしょうか?
寺原さん:住民の皆さんのご理解をいただくために、約150の地域で約450回にものぼる説明会を実施しました。分別品目やルール、収集したごみの出口(最終処分先)の説明、地域での体制づくりなどについて話し合い、経費削減効果など住民の方々にとってメリットとして感じられるような説明も行いました。はじめは分別することに戸惑いながらも、将来に渡って町を持続させていくためにと協力してくださいました。
実際、全国平均のごみ処理経費と比較して、大崎町では住民一人当たり約5,000円、町全体で年間約6,000万円程度の経費削減につながっています。また、資源ごみの売却益として毎年約1,000万円が町の財源になっています。分別作業を行うリサイクルセンターができたことで約50人の雇用も生み出しました。
高いリサイクル率を支えるシステムと住民・行政・企業それぞれの貢献
大崎町の高いリサイクル率は、住民による家庭での分別への協力に加え、「そおリサイクルセンター(中間処理施設)」におけるさらに細かい分別に支えられて成り立っています。地域のごみステーションに出されたごみはリサイクルセンターに運ばれ、人力で検品や異物を除去します。住民によるできる限りの分別と、プロによる最後の仕分けという連携プレーにより、運び込まれたごみの8割以上を再資源化しているのです。


また、特筆すべきは生ごみや草木・剪定くずの処理です。これらは全体の約65%(草木剪定くず41.6%、生ごみ23.9%)を占め、多くの自治体では焼却処分されますが、大崎町では堆肥化施設を導入。生ごみと草木を6ヶ月かけて発酵・完熟させ、有機堆肥として地域に還元しています。


2024年4月には、大崎町の循環型の暮らしに参加できる体験型宿泊施設「circular village hostel GURURI(サーキュラー・ヴィレッジ・ホステル・グルリ)」がオープン。GURURIはリビングダイニングキッチン棟と、宿泊棟に分かれており、一棟貸しで利用することが可能。

循環型の暮らし、というと「分別が大変なのでは?」「我慢・質素の暮らしなのでは?」といったイメージをしがちですが、薪ストーブやボイラー、地元廃材を活用しながらも高気密・高断熱で快適に過ごせる空間です。


滞在中のごみは「プラスチック類」「一般ごみ」「紙容器」などカテゴリ別の袋に分別。地元住民も家庭ではざっくり仕分けし、収集時に細かく分けるスタイルが多いとのこと。分別ガイドや中間処理施設のサポートもあり、思ったより手軽に実践できます。


持続可能な形で、循環を当たり前のものとして続けていくために
体験型の施設・GURURIの運営を行なっているのは、2021年に発足した官民連携組織「一般社団法人大崎町SDGs推進協議会」です。この協議会は「リサイクルの街から世界の未来をつくる町へ」をビジョンに掲げる「OSAKINI PROJECT」を通じて、リサイクル率の向上の先にある根本的な循環型社会の実現を目指しています。今後の大崎町のビジョンについて、同協議会の髙橋知成さんと大崎町役場の寺原さんにお聞きしました。

ー大崎町の資源循環について、これから挑戦したいことは何ですか?
髙橋さん:資源循環による環境負荷削減効果の可視化はその一つです。国立環境研究所との調査研究では、焼却処理を行わない大崎町のシステムが温室効果ガス排出量を38.5%削減することが確認されました。特に生ごみと草木の堆肥化が大きな効果を持つことが判明しています。こういった数値を用いて分別・リサイクルの意義を伝えていくというのが次のステップの課題です。2025年度からは生活者の目線をもとに、クリエイターや企業と共に町の中の風景や住民のより良い暮らしをデザインしていく「CIRCULAR VILLAGE DESIGNING」プロジェクトが始動予定です。
また、大崎町ではユニ・チャーム社やリサイクルセンター、隣接する志布志市と連携し、これまで難しいとされてきた「紙おむつから紙おむつへの水平リサイクル」にも挑戦中です。2023年の4月から新たに紙おむつを資源として回収、資源化の実証実験を開始し、九州地区のイオングループでの販売も行なっています。大崎町を舞台に、こうした環境に優しい商品や仕組みがどんどん生まれてきて欲しいと思っています。


ーこの取り組みを続けていくにあたっての課題や対策を教えてください。
寺原さん:人口減少はこの地域にとって重要な問題の一つです。町内唯一の高校が廃校になったこともあり、経済的理由で進学を諦める子どもを減らすため、大崎町のリサイクル活動の益金を活用した奨学金制度を導入しました。地元金融機関や研究機関と協働で立ち上げたもので、子どもが卒業後10年以内に大崎町に戻ってきた場合、最大で元金と利子の返済を全額補助するという制度です。大崎町で資源が循環するように、大崎町で育った子どもたちが大きくなって地元に帰ってくることを願ってつくられました。
ー「リサイクルの町から、世界の未来をつくる町へ」を掲げていますが、「世界の未来」に込められた想いを教えてください。
髙橋さん:リサイクル率日本一を継続する中で、国内外から注目いただくようになりました。視察に来た方にとって、GURURIのように町の資源循環を体験していただくための施設整備を行うほか、循環を通じてまちから新たな価値を生み出すモデルを大崎町から作っていくべく取り組んでいます。
例えば、大崎町の生ごみ堆肥化の仕組みを他の自治体へ横展開することを目指す「ALL COMPOST PROJECT」も展開しており、長崎県対馬市や静岡県西伊豆町などで実証実験を行いました。
海外からも取り組みが注目され、インドネシアなどの国々への技術支援も行っています。特にバリ州での取り組みでは、10年以上に渡り支援を続け、生ごみと草木の堆肥化により埋立ごみを約40%削減することに成功しました。また、北海道の東川町との連携で、日本語学校で学んだ留学生が大崎町でリサイクル技術を学び、アジア各国で活躍する人材育成プロジェクトも進行中です。
住民の方々の協力も得ながら、高いリサイクル率を実現している大崎町。「もう埋め立てられない」という危機から始まり、行政・住民・企業の連携によってごみ処理を持続可能な形で行っていく仕組みが確立されていました。後編では、2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町を訪れ、さらに小さなごみ処理機能での取り組みについてお届けします!