3万人が集う大阪の共創スペース「QUINTBRIDGE」に潜入 。NTT西日本×UDSが育てる「生きた施設運営」のヒント

大阪・京橋に位置する、NTT西日本のオープンイノベーション拠点「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」。2022年の誕生以来、会員数は約3万人に達し、年間400本を超えるイベントが開催されるなど、熱量を持つ共創の場へと成長しています。そんなQUINTBRIDGEをNTT西日本と共に運営を担うのが、UDS株式会社です。
数値目標(KPI)に縛られず、アナログな温かさと「まずやってみる」精神を大切にする運営哲学は、いかにして多様な人々を繋ぎ、数々の事業共創を生み出しているのか。その舞台裏に迫ります。
- UDS株式会社
- 高野莉子さん、喜久川愛梨さん、稲垣奈美さん
QUINTBRIDGEのコミュニケーターとして、施設管理からイベント企画、会員様同士の交流促進まで幅広く担当。
- サステナ博士
- 大畑 慎治さん(進行役)
サステナ博士。ソーシャルグッドを社会に実装することを目指し、新たな事業や市場を生み出す。早稲田大学ビジネススクールではソーシャルイノベーションのクラスを担当。
O ltd. CEO、Makaira Art&Design 代表、THE SOCIAL GOOD ACADEMIA(ザ・ソーシャルグッドアカデミア) 代表、MAD SDGs プロデューサー。

笑顔はマニュアルからは生まれない。
施設運営スタッフも共創プレイヤーのひとりである理由
大畑:
クイントブリッジ(以下、QB)はNTT西日本さんの本社敷地内に位置していますが、運営はUDSも共に担っています。この2社の役割分担はどのように機能していますか。
稲垣:
NTT西日本さんは、大手企業、さらにはインフラを提供している会社ですので、信頼と規模感、そして影響力をお持ちです。私たちUDSは、ベンチャーマインドを大切に、会員さんとの密なコミュニケーションからニーズをつかんだり、会員さん一人一人にコンセプトを伝えたりしながら、施設の文化醸成を行っています。
今は、オンラインが主流になり、人と直接コミュニケーションをとることが少なくなりました。だからこそ、ここで特に大事にしているのが、リアルな「温かみ」や「熱」です。笑顔で迎え入れることが会員さんの安心感を生み、自由な発想や会話を引き出していく──そう考えています。
喜久川:
運営管理も重要ですが、スタッフ自身がQBを盛り上げる「プレイヤー」だという認識を持っています。自分たちもここでやりたいことに挑戦できるから、作られた笑顔ではない、自然な温かさが滲み出ていると思います。時には初めて会った会員さんと30分も話し込んでしまうこともあるほど、会員さんの情熱に私たちも熱く応えています。

やってみよう!から始まる交流のきっかけづくり
施設を見渡すと、手書きのイベントボードなどアナログな告知が壁一面に並んでいます。
喜久川:
多い日には1日に2~3本のイベントを開催することもあります。ですので、パッと目に留まりやすいように、文字情報だけではなく手書きのグラフィックレコーディングを掲示するようにしました。QBには、とにかく「やってみよう!」と思い立ったらすぐに行動するカルチャーが根付いています。
稲垣:これまでさまざまな施策を行ってきましたが、トライアンドエラーで動きながら、最適を模索するクリエイティブなスタイルで進めてきましたね。

大畑:
会員数も約3万人と膨大ですよね。どのように共創を促しているのですか。
稲垣:
多様な会員さん同士の点と点を、私たちが直接繋ぐことは簡単ではありません。ですので、QBとしては、つながるきっかけづくりができればという想いから、様々なイベントを開催しています。テーマに興味を持った人たちが集まれる場を提供することで、根っこが共通する人同士がつながっていく。そんな機会を提供したいという考え方でやっています。
喜久川:
QBのイベントは交流会とセットがほとんどですが、登壇者との名刺交換だけでなく、参加したみなさんが混じりあって参加者同士でつながっていただくスタイルを大切にしています。同じ課題意識を持つ人同士が、フラットに語り合えることが、共創への近道だと考えています。
高野:
毎日の来館手続きも、私たちにとっては重要なコミュニケーションの場です。事務的に済ませず「今日はなぜ来られたんですか。」「最近、どんなことに興味がありますか。」と一言二言声をかける。その積み重ねで会員さんのことを少しずつ理解していき、その方に合う人やイベントが見つかればお声掛けするようにしています。
企業の商品開発から
市長のリアルな困りごと相談まで、共創の具体事例とは
大畑:
そうした有機的な関わりの末に、どのような共創が生まれているのでしょうか。
高野:
ある会員さんが「インクルーシブデザイン」のイベントを実施し、たまたまその場に参加していた牛乳石鹸共進社株式会社の担当者の方がその考えに共感し、実際に新商品の開発での協業に至ったというケースがあります。
稲垣:
自治体との連携では、「少子高齢化」といった大きなテーマの提示になることが多い中で、ある市長さんから「地域の雑草が伸び放題で困っている!」という切実な現場課題を提示いただいたところ、会員さんの技術とマッチングし、解決へと動き出した事例もあります。
喜久川:
スタートアップや大手企業、行政など、QBにはさまざまな課題に向き合う「プレイヤー」が集まっています。課題と解決策のマッチングから起動するものもあれば、共通の課題意識を持つ会員さん同士が意気投合し、QBでイベントを自ら企画して議論し合う形もあります。

周年のタイミングで作成したというこのパネルには、約50個もの共創事例が展示されています。この事例を眺めるだけでも、ヒントを得たり、新たな問いを発見したり、チャレンジに触発される会員さんも多いことでしょう。
施設は「生き物」だからKPIで縛らない
大畑:
QBの運営におけるUDSとしてのKPIはあえて設けていないそうですね。
稲垣:
施設は「生き物」のように常に変化していくので、数字を設定してそれを追うことよりも、常に動きながら、今何が必要か、次は何をしなくてはいけないかを考えて、それに向かって進んでいくことを大事にしています。ただ、だからこそ、目的や現在地を常に確認しておくことが重要です。そこで、定期的に振り返りをしながら現在地の確認やこれから何をしていくかの話し合いを密に行っています。
大畑:委託元からKPIを課せられて現場もそれを指標に行動するのが一般的だと思いますが、NTT西日本さんとUDSの深い信頼関係があってこそなんですね。
稲垣:
非常にありがたいことで、NTT西日本さんのQBについての会議にも出席させてもらっています。両社に場づくりができるコミュニケーターがいるので、自分たちでワークショップを設計し、2社でQBの在り方について議論を行うなど、共通言語をつくりながら目線合わせを行っています。
高野:
また、2社で行う毎週の定例会議では、施設の「現在地」を常に照らし合わせているからこそ、やりたいことを始めるスピードも、必要ないと判断したものをやめるスピードも驚くほど速いです。
想定外を乗り越える、常に変化するチャレンジの形
大畑:
会員様とのコミュニケーションだけではなくNTT西日本さんとの関係値も順風満帆に見えますが、大失敗や苦労したことはなかったのでしょうか。
稲垣:
想定外のことがたくさんありました。たとえば、ゼミを事業の「公開壁打ち」にした会があったのですが、「公開」というハードルが高かったようで、なかなか手を挙げる人がでなくて。そこで、それぞれの事業ピッチをブラッシュアップする会を開き、NTTのコミュニケーターの方や会員さんなど、多様な方にメンターとして入ってもらいました。すると、さまざまな方が壁打ちをできる場ができ、QBとしての強みを生かした場になりました。結果として、壁打ちがQBの一つの文化として定着したんです。とにかくやりながら修正していく姿勢が、共創を加速させると実感しました。
大畑:
さまざまな想定外を乗り越えてきた皆さんが、これからチャレンジしたいことについて聞かせてください。
稲垣:
オープン後、数年間はいろんな会員さんに頻繁に来てもらい交流機会を増やすような広がりに注力していましたが、これからは事業共創施設としての「質」に寄与していきたいです。
喜久川:
私たちコミュニケーターに求められる役割も日々アップデートされています。目の前のことに全力で向き合いながらも、さらに一歩先で「次に求められることは何か」に応えられるようになりたいですね。
高野:
QBは今の社会にとって必要な施設だと信じています。ここでの運営をモデルケースとして、現場で培ってきた生身のノウハウを言語化・可視化して、他の地域でも再現できる形で広めていくことにチャレンジしていきたいです。

人と人との繋がりと「まずはやってみる」精神を軸にした運営スタイルが、約3万人という巨大なコミュニティに血を通わせ、未来を切り拓く共創を生み出し続ける。そんなQBの運営哲学から目が離せません。