D&Iを価値向上につなげる〜アクセシビリティマップ作りの裏側

インクルーシブデザインワークショップ マップ完成編のサムネイル

開発プロセスの初期段階から多様な背景や価値観を持つ人々とともにアイデアを形にし、新たな可能性を探る「インクルーシブデザイン」。

このうち、2025年7月から9月にかけて実施したワークショップでは、野村不動産グループが取り組んできたインクルーシブデザインの一つの成果として、車いす利用と視覚障がいの当事者の声を組み込んでBLUE FRONT SHIBAURA(以下、BFS)への*アクセシビリティマップを作成することができました。

※今回作成したアクセシビリティマップ: インクルーシブデザインの手法を用いて当事者と対話しながら作り上げることで、 従来のバリアフリー情報に限らない、目的地へのアクセシビリティ(=近づきやすさ、利便性)を高める情報を盛り込んだ地図のこと。

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3回にわたって開催した、アクセシビリティマップ作成に向けてのインクルーシブデザイン・ワークショップの模様はこちら

ワークショップを経てどのようなプロセスでアクセシビリティマップが完成したのか。その意義や、野村不動産グループのインクルーシブデザインが次に見据えることなどを、ワークショップを企画したサステナビリティ推進部・丸山眞輝さんに聞きました。

アクセシビリティマップに「あるべき情報」とは何か?

今回の3回のワークショップでは、実際に車いす利用と視覚障がいの当事者と何度も道を確かめながら野村不動産グループ新社屋であるBFSへのアクセスを検証して以下を作成しました。

●車いす利用者のためのアクセシビリティマップ
https://www.bluefrontshibaura.com/barrier-free/wheelchair-user/
・JR 浜松町駅
都営地下鉄 大門駅
・ゆりかもめ 日の出駅

●視覚障がいのある方向けのアクセス情報である言葉の道案内
https://www.bluefrontshibaura.com/barrier-free/visually-impaired-person/hamamatsucho/

ワークショップ終了後に班ごとにポイントをまとめました。ワークショップの設計やファシリテーターを務めたPLAYWORKSと協議しながら、各班で共通した内容は残し、班によって異なった情報については、より伝わりやすい情報へ収束させていったそうです。

JR浜松町駅からBLUE FRONT SHIBAURAまでの車いすルート地図。エレベーター位置と傾斜区間を表示。
JR浜松町駅南口改札からの移動手順を示す案内写真。矢印で進行方向とエレベーター位置を案内。
浜松町駅からのアクセシビリティマップ。各駅からBFSまでのマップでは、案内ステップが多くなりすぎないように情報を絞り込むことに苦労したといいます。
 https://www.nomura-re-hd.co.jp/company/pdf/route_hamamatsucho_jr.pd
視覚障がい者向け「言葉の道案内」の画面。JR浜松町駅からのルートを文章とステップ番号で説明。
BFS建物外にある入り口インターホンまで誘導する形になっています。https://www.bluefrontshibaura.com/barrier-free/visually-impaired-person/hamamatsucho/

アクセシビリティマップに「あるべき情報」とは、一体どのようなことなのでしょうか。

丸山さん
「BFSに来訪いただくために適切な情報をお伝えするのが目的です。経路の分岐やエレベーターの位置など、必要なポイントを盛り込みつつも、できるだけシンプルにすることを心がけました。情報を入れすぎてしまうと読むのに時間がかかってしまいますし、注意点が多すぎると必要以上に辿り着くのが難しいイメージを持たせてしまいます」

「あるべき情報」を判断し、表現するプロセスでは苦労も多かったようです。丸山さんがその一端を振り返ってくれました。

「ワークショップでの議論を基に、合理的だと思う範囲で記載のルール決めをしながらマップを作成しました。しかし、実はJR浜松町駅からBFSまでのまっすぐの道は、緩やかに傾斜があります。ルール上はあえて表記しなくても問題ないと思う程度の傾斜でしたが、“緩やかな坂がずっと続く道を車いすで歩くのは大変”という声がワークショップであがったため記載することにしました。すべての意見を記載するわけではないですが、リードユーザーや参加者からもらった生の意見は重要視しました。人によって掲載したほうがよいかどうか判断が分かれる部分は、特に悩みましたね」

屋根付き歩道の緩やかな上り下りと、TOWERS S側エレベーターへの分岐を示す案内写真
https://www.bluefrontshibaura.com/barrier-free/wheelchair-user/

「車いす利用者のマップでは、写真の選び方やその説明文の整合性などで苦労しました。一方で言葉の道案内では、晴眼者が見えている世界と視覚障がい者が見えている世界との間にあるちがいを整理しながら、”そこは屋内なのか屋外なのか”、“自動車や自転車は通らない道なのか”等を示すことで安心感を持って来街してもらえるのではないか、ということを想像しながら、リードユーザーや参加者の皆さんのリアルな声を参考に作りました」

ワークショップに参加する丸山さん。ワークショップ期間終了後も毎週のように議論を重ね、約1か月半で校了できました。

慈善活動ではなく“収益”につながる価値を生み出すために

丸山さんが熱心に取り組んだ背景には、ご家族のある経験もあったそうです。

「父が一時期車いすに乗っていた時期があります。本人も家族も車いすを使って出かけることがハードルと感じてしまい、外出を控えがちになりました。今思うともっと情報を得て外出できる方法を考えられたらよかったと思います。BFSにアクセシビリティマップがあることでそのハードルを下げて、”自分たちでも行けそうだ、楽しめそうだ”と前向きに思っていただけるように情報を考え抜きました。そして、これは街づくりのにおける重要な考え方の1つではないかと感じました。」

「アクセシビリティマップは、車いす利用者だけでなくベビーカーやスーツケースを使っている方にも役に立つはずです。言葉の道案内も本来は視覚障がい者向けですが、地図や図表を読むことが苦手な方にとっても助けになると嬉しいです。一緒に地図を作製したリードユーザーの方々以外の方たちにとっても使いやすいものになっていたらいいですね」

障がいのある人たちの安全を最優先すべきか、誰でもBFSに来やすくなることを最大の目的とすべきか、2つの考え方をすり合わせるプロセスでもあったと丸山さんは振り返ります。

「私たちは、アクセシビリティマップも言葉の道案内も街に来てもらうきっかけにしたいと考えています。開示している情報をきっかけに訪れてみたい、テナントに入りたい、と思ってもらえる材料にしたいのです。決して慈善活動として取り組んでいるのではなく、事業機会へつなげられないか考え、試行錯誤しています。そのため、BFSでアクセシビリティマップを作成したときの留意点をまとめた解説書を作成し、野村不動産グループが関わる他施設でも同様のマップを作成するときに活かせるように準備しています。」

ワークショップを経てマップ作成の過程のなかで、施設内の音声案内やエレベーターを示すサインの計画を見直しているといいます。建物のハードだけではなく、必要なサポート方法を施設スタッフが身に着けるなど連携しながら一つひとつ改善を進めていきたいと意気込みます。

サステナビリティのKPIとしての理解促進に寄与

今回の3回にわたるインクルーシブデザイン・ワークショップは、事業に関連するアウトプットまで至った初めてのケースとなりました。各回に経営トップ層が参加するとともに多くの部署からの参加もあった一連のプロセスを、丸山さんはどのように考えているのでしょうか。

「最初は芝浦プロジェクト本部に持ち込んで始まった企画でしたが、車いすや視覚障がいのリードユーザーの方およびPLAYWORKS様に参画いただき、新井さん、松尾さん、芳賀さんの参加が決まり、さらには10を超える部店から参加をいただいて、累計約120名の多様な視点が交わるワークショップとなりました。百聞は一見にしかずで、幅広いリードユーザーの意見を聞いた上で商品設計することで生まれる発見を実感していただけたのではないかと思います。『これまで考えたことがなかった視点が得られた』というフィードバックをもらえたのはとても良かったです。皆様の業務にもインクルーシブデザインの視点を取り入れてもらえればと思います。」

「インクルーシブデザインはサステナビリティ推進のKPIになっておりまして、まだまだ取り組みの意義や内容の理解・浸透の余地が大きいテーマだと思います。その中でも今回の取組みについてはサステナビリティ委員会や人権分科会で前向きなご質問やご意見をいただけた実感があります。まだ事業収益に直結させられていないので、事例を作っていくことが必要ですが、まずは第一歩のご理解をいただけて良かったです」

野村不動産グループでは現在、社内タスクフォース「インクルーシブラボ」で建物内の回遊にインクルーシブデザインを取り入れるための実証実験を進めています。今回のワークショップにもタスクフォースのメンバーが複数参加したことで、お互いの理解が進んだのではないかと丸山さんは見ています。また、社内にはこんな動きもあるといいます。

「視覚障がい者のワークショップには住宅事業本部も参加していたのですが、その後本部内にインクルーシブデザインチームができて、マンションやホテルで何か取り組みができないか相談を受けています。事業への実装の間口が広がっていることをうれしく思います」

積み重ねてきたインクルーシブデザイン・ワークシップの成果は、少しずつ芽吹いています。

部門を超えて、グループ会社全体へ広げたい

ここまで回を重ねてきたインクルーシブデザイン・ワークショップ。丸山さんに今後の展望をお聞きすると、こんな答えが返ってきました。

「まだ限られたテーマやアセットでしか実施できていませんので、さらに色々な部店とともに進めていきたいですね。自ら体験することで、何か気付きを持って帰ってもらえていますので、今後も引き続き体験の機会を作りたいです」 「サステナビリティ推進部としては、“リスク低減としてのD&I“だけではなく、“人々に選ばれる価値向上のためのD&I”を進めたく、インクルーシブデザインはそのキーワードになりうると考えています。コストがかさむ取組みではなく、自分の事業に活かすと商品性が上がる、客層の幅が広がることにつながる取組みをしていきたいですね」

インクルーシブデザインを事業プロセスに組み込んでいくことで、さらに価値を高めたい、と丸山さんは話します。成果が表れ始めたインクルーシブデザイン・ワークショップの今後の展開にさらに注目です。

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