野村不動産グループ本社が大引っ越し【前編】本棚から社会を照らすバリューブックスの哲学

この夏、私たち野村不動産グループは、約半世紀にわたり拠点としてきた新宿野村ビルから、BLUE FRONT SHIBAURAへと本社を移転します。大きな変化の節目には、多くの「手放すモノ」が出てきます。ですが、それらは本当に「ごみ」なのでしょうか? きっと新たな価値を生み出す「資源」のはず。そんな想いから、5月30日「ごみゼロの日」に「資源を、つなぐ!」プロジェクトが始動しました。

オフィス移転時に、家具や機器は会社として移送や処分の対応が進められますが、細かな備品や個人の所有物はどうでしょうか。

本プロジェクトでは、

●クリアホルダー(アスクル)
●文具(NPO法人グッドライフ)
●古本(株式会社バリューブックス)
●ビニール傘(PLASTICITY)

それぞれの協業先と共に、新たな価値へとつなぐ試みに挑戦します。

今回は、「古本」の行方について株式会社バリューブックスの取り組みに焦点を当ててみましょう。

回収対象アイテムを表している。

年間1000万冊の本が集う場所 バリューブックスの哲学と挑戦

オフィスを見渡すと、ビジネス書や技術書、資格試験の教本、雑誌など、多種多様な書籍が並んでいます。しかし、移転先オフィスフロアのフリーアドレス化に伴い、個人で保管している本の所在に頭を悩ませる社員も多いことでしょう。しかし、まだ読める本をごみとして廃棄することをどうにか回避したいと考え、本の循環に取り組む株式会社バリューブックスに相談をしました。

届いた本を仕分けする倉庫の様子。

現在、長野県上田市に本社を構えるバリューブックスの物語は2007年、創業者である中村大樹氏がAmazonマーケットプレイスで不要な本を売った小さな成功体験から始まりました。その後、事業が拡大していくなかで、「日本および世界中の人々が本を自由に読み、学び、楽しむことができる環境を整える」というミッションを掲げ、枠にとらわれない柔軟な精神で事業が拡大していきました。

日々、全国から届く段ボールは1日に約1000箱、年間にして1000万冊を超える本が、ここ上田の倉庫に集まってきます。それらを、本への深い愛情と知識を持つプロフェッショナルなスタッフたちが一冊一冊丁寧に仕分けしていきます。

積まれた届いた本と、それを仕分けするスタッフの姿が映っている。
届いた本を仕分けをする、倉庫の様子。全国から届いた本が山積みに。
スタッフが本のバーコードをスキャンしている。
一冊ずつバーコードをスキャンし、データベースに登録。効率と正確さの両立が求められる作業だ。
日付+通し番号で管理された本が書棚に並んでいる。
書棚はすべて“日付+通し番号”で管理されている。

仕分けの結果、再び誰かの手に渡る本は約半数。需要と供給の関係により今の市場価値はないと判断された場合は、古紙回収にまわしています。「再生紙として資源循環をするのは正しい流れではあるものの、他に自分たちにもできることはないか」と考え、同じ長野県内の印刷所と作った文字のカケラが残る”本だったノート”や、古紙ではなく本の形のままで読書の価値を提供するブックカフェ“NABO”が生まれました。本という存在そのものへの敬意が滲み出ています。

バリューブックスが運営するブックカフェ「本と茶 NABO(ネイボ)」の外観。
バリューブックスが運営するブックカフェ「本と茶 NABO(ネイボ)」。本を”売る”だけではなく”読む”時間を提供するためにカフェスペースも併設されている。

近年、その企業姿勢は「B Corp」という国際的な認証の取得によって、より明確な形となりました。B Corpは、環境、社会、ガバナンスなど、企業活動全体における公益性を厳格な基準で評価します。「社会に良いことをやっているものの、それをちゃんとした物差しで測り、わかりやすく伝えていくことも大切」と西山さんは当時を振り返ります。B Corp認証は、バリューブックスの活動を客観的に示し、さらなる高みを目指すための羅針盤となりました。

本の循環を通じて社会に向き合ってきたバリューブックスは、B Corp認証の取得により、その姿勢を一層明確にしました。そうした企業姿勢の延長線上で、本を寄付へとつなげる「チャリボン」が誕生したのです。

本がつなぐ、支援の輪。企業も参加するチャリボンの可能性

「チャリボン」は、バリューブックスが提供するチャリティの仕組み。読み終えた本やDVDなどの査定額を、NPOやNGOなどの活動資金として寄付ができます。このアイデアは、創業者がNGOやNPOの人たちとの出会いを通じて、「自分たちが無理をせず、もともと持っている仕組みやノウハウを活かし、継続していけることはないだろうか」という想いから生まれました。

バリューブックスが運営するサービス「チャリボン」のウェブサイト。
支援したい団体は地域別やカテゴリ別で探せる。

「サービス開始して程なく東京大学さんから直接問い合わせをいただき、徐々に他の大学にも広がっていきました。現在では、大学だけではなく多くの企業とも連携し、被災地での図書館再建するなど数えきれないほどのプロジェクトを支え、累計寄付額は約7億円を越えました」

この仕組みは、関わる全ての人に新しい風を吹き込みました。

寄付先の団体からは、「『資金を提供してください』と何度もお願いしなくて済むのがありがたい」と切実な声があり、寄付者からは「現金での寄付は難しくても、本なら支援できる」といった共感が寄せられています。年間10万円から20万円の寄付でも、小規模な団体にとっては運営存続や新たなプロジェクトが芽吹く土壌となっています。

私たち野村不動産グループの「資源を、つなぐ!」プロジェクトでも、社員から集めた本はこのチャリボンの仕組みを通じて寄付します。当グループのマテリアリティ(重要課題)に基づき、

●障がいのある方々の表現活動を支援する「リベルテ」
●子どもたちの人権と豊かな育ちを支える「場作りネット」
●持続可能な森林活用と生物多様性の保全に取り組む「森のライフスタイル研究所」
●能登半島地震の被災地復興支援を行う団体

などを予定しています。

古本を段ボールに詰めて送るというそのシンプルな行為が、誰かの未来を照らす光に変わります。自分で寄付先を探して手続きをする手間を考えると、このワンストップの仕組みは画期的で、資源循環や寄付による社会貢献の敷居を下げてくれます。日々の生活の延長線上で、ごく自然に社会とのつながりを生み出す、まさに顧客目線のビジネスデザインと言えるでしょう。

スタッフが1冊ずつ売れる可能性がある本はないかチェックをしている

「手放す」から始まる未来 私たちが今日からできること

私たちは日々、何かを「手放す」行為をしています。そんな時、少し立ち止まって考えてみてほしいのです。「まだ長く使えるないだろうか?」「修理はできないか?」「誰かに譲れないか?」と。そして、どうしても手放すなら、「ごみ」以外の選択肢があることも思い出してほしいのです。

本を通して、その先にある社会課題や、それに向き合う人々の存在を知り応援する——チャリボンは、そんな気づきと行動を結びつける入口です。西山さんは「支援者自らが寄付先を選べる仕組みがあることで、社会課題を知るきっかけになれば」と語ります。

新しい本を手に取るとき、いずれ手放す日のことを思い描いてみる。本当に必要か考えたり、古本を購入したり図書館を活用するのも選択肢です。この「資源を、つなぐ!」プロジェクトが、そんな日々の小さな意識の変化につながればと願っています。

取材に応じてくださったバリューブックスの西山卓郎さんが笑顔でインタビューに応えている。
取材に応じてくださった西山卓郎さん。バリューブックスの現場と理念を熱く語ってくれた。

後編では、クリアファイルのリサイクル、文具のリユース、ビニール傘のアップサイクルの取り組みをご紹介しますので、お楽しみに!

本棚の奥から始まる、サステナブルな物語

モノが溢れ、使い捨てが当たり前になりがちな現代において、バリューブックスは、一冊一冊の本に宿る価値を丁寧に見つめながら、それを次の読者へとつなげたり、古紙回収として再生させるなど、本のその先の役割まで見据えた取り組みを続けています。

今回、私たち野村不動産グループがオフィス移転にともない手放す本も、再流通や資源化などを経て換金された分をチャリボンを通じて寄付になり社会に役立てられます。

本棚を整理するそのときに、バリューブックスのような選択肢を思い出し、その小さな選択の積み重ねが、持続可能な社会への一歩になるでしょう。

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