車いすに乗っていたら、視覚が不自由だったら、BLUE FRONT SHIBAURAへスムーズにたどり着ける? ~インクルーシブデザインWS 身体障がい編~

開発プロセスの初期段階から多様な背景や価値観を持つ人々とともにアイデアを形にし、新たな可能性を探る「インクルーシブデザイン」。野村不動産グループはこれまで、事業へのインクルーシブデザインの導入を目指して、ワークショップなどを通じて様々な実践を積み重ねてきました。
※インクルーシブデザインとは:
野村不動産グループでは、「商品・サービスづくり等のプロセスへ多様な背景・価値観を持つ人々の参画により、新たな気づきを得て、まだ見ぬ価値を創造するための手法」と定義している。身体の障がい、年齢、性別・ジェンダー、言語、国籍、文化、能力、環境などの理由でデザインプロセスから「排除されてきたマイノリティの人々」を、初期段階から積極的に巻き込み、ともにデザインしていくアプローチのこと。
参考)
インクルーシブなアクションを起こす一歩は、日常を知ることから。インクルーシブデザインワークショップ・外国人ワーカー編【前編】
外国人ももっと働きやすい職場づくりのアイデアを、一緒に考える。インクルーシブデザインワークショップ・外国人ワーカー編【後編】
今回の一連のワークショップのゴールは、当事者の声を組み込んだ*アクセシビリティマップの作成を通して、多様なステークホルダーを受け入れた新たな価値の創造につなげること。さらに、今後の開発時にも活用できる土台を築くことです。
※今回作成したアクセシビリティマップ:
インクルーシブデザインの手法を用いて当事者と対話しながら作り上げることで、 従来のバリアフリー情報に限らない、目的地へのアクセシビリティ(=近づきやすさ、利便性)を高める情報を盛り込んだ地図のこと。
野村不動産グループの新社屋でもあるBLUE FRONT SHIBAURA(以下、BFS)を舞台に、誰もが迷わずたどり着け、誰にとっても過ごしやすい環境にするために、車いすユーザー(肢体不自由)と視覚障がいのある方々をお招きして、3回にわたってワークショップを開催しました。
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第1回 車いすユーザー編「車いすでもたどり着けるマップを作る」
第2回 車いすユーザー編「第1回のマップを試して改善する」
第3回 視覚障がい者編「言葉の道案内で音声を頼りに歩く」
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第1回 車いすに乗らないとわからない、「障壁」を体感
7月某日、ワークショップ会場に集合したグループ各社のメンバー26人。
まずは、東京都内大型施設のバリアフリーマップの好事例を学び、リードユーザーの皆さんから車いすの操作方法を教わりました。予備知識を得た上で、4つのグループに分かれて実際に街へと飛び出しました。車いすで最寄駅(JR・東京モノレール浜松町駅)(都営地下鉄大門駅)(ゆりかもめ日の出駅)からBFSへ来街するための広域マップと詳細マップをつくるためのフィールドワークを行いました。
今回もファシリテーターはPLAYWORKS代表・タキザワケイタさんが担当しました。第1回のワークショップは、「BFSを初めて訪れる車いすユーザーに届けるべき情報は何か、車いすユーザーの皆さんと一緒に考えていきましょう」というタキザワさんからのメッセージとともにスタートしました。


この日、新井グループCEOが参加したAグループは、大門駅を出発地点として浜松町駅を通過してBFSへ向かうルートを調査。真夏の強い日差しの中、グループメンバーの皆さんは車いすで移動することで、普段は気づかない、歩道のわずかな傾斜や段差、路面状態などの”障壁”を改めて体感しました。

「車いすだけではなくベビーカーや大きなスーツケースの人も同じような困難がありそう」
「このルートは最短だけど、朝のラッシュやアフターファイブには人の流れが変わりそう」
「スロープかと思ったら、途中で階段。分岐点に標識があると親切だね」
など、車いすユーザー目線としての目線も盛り込まれた感想やマップ作成の意見が絶えず交わされました。


会場に戻ると、グループ毎に写真や説明書きを加えてマップを作成します。Aグループでは、長い直線ルートがいつまで続くのかと車いすユーザーが不安にならないように、目印となる看板などの写真を入れ込む工夫も。また、エレベーターの位置がわかりづらく、乗車に戸惑う場面があり、「遠くからでもわかりやすいエレベーターのサインを取り付けたほうが良いのでは」という具体的な意見も挙がりました。
「ルートを知ると思ったより不便ではないことが分かりました。一方で、エレベーターの位置などの情報をより分かりやすく提供できれば、もっとスムーズに移動できそうだと感じました」とリードユーザーの染谷さん。他のグループからも「複数のルートを示してもらえると有難い」「示されたルートは自転車が通る道なのかどうかも分かるようにしてほしい」などの声が上がりました。
また、日の出駅からのチームは、わかりやすいが古く舗装が傷んだ橋と、少しわかりづらいが新しく道幅の広い橋の両方を調査し、実際の体験を基に適切なルートを検討しました。
新井グループCEOからはこんなアイディアも。「車いすで移動しながら耳で聞ける音声ガイダンスや車いす視点で周辺環境の状況がわかる動画へのチャレンジもおもしろいかもしれません」

第2回 車いすユーザーが「スムーズに移動できる」マップを
約1か月後の第2回では、第1回のワークショップで作成した「アクセシビリティマップ」を基に、より実用的なマップへとブラッシュアップしました。
まず前回作成したマップ案をもとに、車いすユーザーの皆さんと意見交換。以下のような観点で改善点を洗い出しました。
具体的には、
●「情報として適切か?」
正確性はもちろん、傾斜や道幅など車いすで移動するときに知っておきたい情報が適切に含まれているか
●「写真の向きや高低、範囲は適切か?
写真は車いすユーザーの目線で撮影され、当事者にとって意味のある情報となっているか。
●「当事者がルートを想像しやすいか?」
「道なりに直進」「コンビニを左折」などではなく、「道なりに20m直進」「コンビニの手前の路地を左折」など具体的で安心できる情報になっているか
サステナビリティ推進部・丸山眞輝さんは「アクセシビリティマップはエリア全体を把握する“鳥瞰マップ”と、道順や個別の注意点を示す“詳細マップ”の2つを作りますので、それぞれに必要な情報をよく見極めていきましょう」と呼びかけました。

意見交換のあと、第1回で作成したマップを持って再びフィールドワークへ出発。各グループは、前回とは異なるリードユーザーから違った視点でのアドバイスを受けながら、メモをとったり写真を撮りなおしたりしていきます。

会場に戻ってからは、一つひとつの写真と文章をより分かりやすく親切な案内にするために議論していきます。リードユーザーの大塚さんからは「次のシーンが想像できるように、写真はもう少し広角に撮影したほうがいい」「乗るドアと降りるドアが異なるエレベーターの場合は、車体を回転させる必要がないのでその情報も追加すると安心できる」など、改善のアドバイスが続きました。

この日、参加した松尾グループCOOからは「車いすに乗ってみると、目線が低くなり遠くまで見渡せないことが体感として分かりました」と実感がこもったコメントが。また、車いすの人とエレベーターに乗る時、つい「お先にどうぞ」と先を譲ってしまいがちですが、今回大塚さんからから降りる時に時間がかかってしまうので、逆に先に乗って扉を開けて欲しいと言われたそうです。松尾さんは「障がいのある方たちに対してよかれと思ってやっていたことが、実は当事者の方目線ではないことがあると知りました。こうした意識の醸成をどのようにすれば良いかと思いました」と話しました。


第3回 言葉の道案内で視覚障がい者をBFSへ導く
第3回では、視覚障がい者向けのアクセス情報である言葉の道案内の作成に取組みました。道案内の文章をスマートフォンで読み上げながら、各駅からBFSまでの来訪ルートを移動します。

まずはアイスブレイクとして、視覚に障がいがある方の世界を実感するために、全員がアイマスクをして手触りやにおい、味でお菓子を当てるゲームを実施。視覚情報が遮断されることで、「指示語が伝わらない」「そもそも何を食べるのかわからないのが怖い」といった感覚が生まれたようです。さらに、アイマスクをしたまま自己紹介をしたところ、周囲は頷きながら耳を傾けていますが、喋っている本人にはそれが見えず孤独感を感じるといった声も。普段のコミュニケーションの中で、いかに視覚情報に頼っているかを実感しました。


次に、ロービジョンメガネや白杖を使った移動や、視覚障がい者のガイド体験を行います。今回のワークショップでは芳賀コーポレート統括も参加し、アイマスクやロービジョンの目に草を疑似体験できるメガネをかけて、野村不動産グループのオフィス内を歩いてみる体験を行いました。
視覚障がいといっても、全く見えない全盲だけではなく、ぼんやりと見えるコントラスト低下や見える範囲が限られる視野狭窄など、見え方は人によって様々です。「階段がありますよ」だけではなく「のぼり階段がありますよ」と明確にすることや、「次で階段が終わります」と階段が終わるときも声掛けをしないと危険なことなどを確認していきます。見えない・見えにくい状態で歩くことの困難さやポイントを体感した後、フィールドワークへ向かいます。

言葉の道案内をスマートフォンで読み上げ、頭の中に地図を描いていきます。リードユーザーが迷ってしまう場合は、どういった表現であれば正しく伝わるのか注意深く検証をしていきます。


フィールドワークを終えて会議室に戻ると、言葉の道案内の分かりやすかった点と分かりづらかった点を振り返りながら、どのようにブラッシュアップすべきか議論します。リードユーザーからは「音声に従って"歩かされた"と感じずに、自分自身で到達したと思えるような表現のニュアンスにできないか」「手すりの点字や、エスカレーターを知らせる音声も、騒がしい駅では聞きづらい」といった意見も聞かれました。
BFSの企画や設計に関わる芝浦推進部長の足立さんは「BFSの入り口で音を出すことでよりわかりやすくできるのではないかという意見をいただいた。他にも点字ブロックやエレベーターの行先ボタンなど当事者と同じ目線になって初めて気づく課題が見つけられてよかった」と応じました。
最後に、芳賀さんは「グループとしてやれること、やらなければならないことがたくさんあると気づかされました。BFSは開業したけれどまだまだアップデートしていき、色々な人たちが楽しめる施設を作っていきたい」とコメント。ファシリテーターのタキザワさんからは「視覚障がい者の方々が『言葉の道案内があるならば自分もBFSに行ってみよう!』と思ってもらえるように、リードユーザーの意見をもとにブラッシュアップしていきます。また、参加者の皆さんには今日の気づきを業務に活かしてほしい」とエールが送られました。


こうして、真夏に行われた3回のワークショップをもとに作成するBFSアクセシビリティマップは、一体どのようなものになるのでしょうか。
続編の更新にご期待ください。