ウェブサイトで「人の行動」をデザインする。プライムクロスが考える、コミュニケーション設計の本質

株式会社プライムクロスインタビューのサムネイル

出演者プロフィール
徳世 祐介さん

デザイン制作の組織にて、デザイナーとして新築分譲マンションの他、不動産領域での様々な実績を持つ。

出演者プロフィール
長野 将人さん

新築分譲サイト制作からビジュアル表現・CMSデザインまで、幅広く手がけた後に、現在は不動産ブランドのブランディングやコーポレートサイトのディレクションを担当。

大畑 慎治さん(進行役)

サステナ博士。ソーシャルグッドを社会に実装することを目指し、新たな事業や市場を生み出す。早稲田大学ビジネススクールではソーシャルイノベーションのクラスを担当。O ltd. CEO、Makaira Art&Design 代表、THE SOCIAL GOOD ACADEIA(ザ・ソーシャルグッドアカデミア) 代表、MAD SDGs プロデューサー。

ウェブサイトのデザインは、人の意識や行動にどう影響を与えるのでしょうか。それは単に情報を整理して見せるだけでなく、作り手の思想や企業の姿勢を伝え、社会とのコミュニケーションを生み出す力を持っています。今回は、野村不動産グループをはじめ数多くの企業のウェブサイト制作を手掛ける株式会社プライムクロスの徳世さんと長野さんを迎え、「人の行動をデザインする」という視点から、社会や環境に配慮したデザインアプローチに迫ります。

大畑(サステナ博士): 本日はよろしくお願いします。プライムクロス社では「人の行動をデザインする」という視点を大切にされていると伺いました。まず、デザインが持つ役割について、お二人はどのようにお考えですか。

徳世さん: 私は、ウェブサイトはクライアントと社会との「コミュニケーション」そのものだと考えています。情報を一方的に発信するだけでなく、サイトを訪れた人とどう対話し、どう行動してもらいたいのか。そのコミュニケーション全体を設計することが、私たちの役割です。最終的なアウトプットがウェブサイトという形になるだけで、最も大事にしているのは、クライアントが何を伝えたいのか、社会とどう向き合っていきたいのかを一緒に考えるプロセスです。

長野さん: 私たちの会社には、クライアントや社内の人間に対して真摯に向き合える社員が多いと感じています。事業の根幹にあるのは「人に寄り添う」という姿勢であり、相手が考えていることを深く理解し、自分の中で咀嚼した上でアウトプットしていく。その姿勢が、良いコミュニケーションデザインに繋がっているのだと思います。

株式会社プライムクロスの長野さんと徳世さんが話している様子
株式会社プライムクロスの徳世さん(右)と長野さん(左)

機能のデザイン「建物のスロープ」としてのウェブアクセシビリティ

大畑(サステナ博士): コミュニケーションを設計する上で、まず土台となる考え方は何でしょうか。

長野さん: それが「ウェブアクセシビリティ」です。ここで言う「アクセシビリティ」とは、「アクセスのしやすさ」を意味します。年齢や身体的な条件、利用している環境などに関わらず、誰もが情報やサービスをスムーズに利用できる状態を目指す考え方のことです。
これは物理的な建物のアクセシビリティとほとんど同じ考え方で、いわば「建物のスロープ」のようなものです。現代においてウェブサイトは社会インフラの一つですから、障害の有無や年齢にかかわらず、どんな人も等しく情報にアクセスできる状態を担保する必要があります。これは、SDGsが掲げる「誰一人取り残さない」という理念にも通じる、コミュニケーションの基本的な姿勢です。

大畑(サステナ博士): アクセシビリティに対応する上での難しさはありますか。

徳世さん: やはり、デザインの表現とのバランスです。アクセシビリティには国際的なガイドラインがあり、達成度合いを示す等級があります。例えば「AA(ダブルエー)」という高い等級を目指すと、色のコントラスト比の基準が厳しくなり、ブランドイメージを表現するために使いたい特定の色が使えなくなる、といった制約が出てきます。その基準の中で、いかにしてクライアントが伝えたい世界観を表現するか、という点が常に挑戦だと感じています。

大畑(サステナ博士): 会社としては、どのように対応を進めているのでしょうか。長野さん: 2024年4月の法改正で、事業者によるウェブサイトのアクセシビリティ配慮が義務化されたこともあり、その施行1年ほど前から、クライアントからのご相談が増えてきました。それに応えるため、社内ではアクセシビリティに関するタスクフォースを組み、専門知識を持つメンバーが中心となって社内の知見を高めています。会社として組織的に取り組むことで、より質の高い提案ができる体制を整えています。

長野さんが、サステナ博士に向かってウェブアクセシビリティの考え方を説明している様子。

大畑(サステナ博士): 具体的なサイトでは、どのような工夫をされているのでしょうか。

長野さん: 例えば、私たちが手掛けた野村不動産ウェルネスのサイトでは、ご高齢の方もご覧になることを想定し、一般的な基準よりも文字サイズを少し大きめに設計しました。また、ウェブサイトは紙媒体と違って「状態が変化する」点が特徴です。そのため、ユーザーが「今、自分が何をしているのか」を直感的に理解できるデザインが不可欠になります。クリックできるボタンにカーソルを合わせると色が変わる、といった細やかな反応を返すことで、ユーザーとのスムーズな対話が生まれるのです。

野村不動産グループのサービスサイト「オウカス」の画面デザイン。
健康増進型・賃貸シニアレジデンス「オウカス」の画面デザイン。
野村不動産ウェルネスのウェブサイトのデザイン例。文字サイズや操作性に配慮したインターフェースが表示されている。
野村不動産ウェルネスのサイト制作では、ご高齢の方にも配慮した大きめの文字サイズや分かりやすい操作設計を採用。

情緒のデザイン 企業の「らしさ」を伝える

大畑(サステナ博士): すべての人が使いやすいという機能的な土台の上に、今度は企業ごとの「らしさ」といった情緒的な価値を表現していくわけですね。

徳世さん: はい。例えば、野村不動産グループの各種サービスを紹介するサイト「野村のクラスマ」では、まずグループがどんなサービスを提供しているのかを知ってもらうことが第一の目的でした。その上で、グループとしての「安心感」を伝えるためにブランドカラーを効果的に使いつつ、幅広い層に親しみを持ってもらうため、角の取れた丸みのあるデザインを取り入れ、「やわらかさ」を演出しました。情報を知ってもらい、自分ごと化してもらうことで、最終的にサービスを使ってもらう。その一連の流れをデザインで後押ししています。

野村不動産グループのサービスサイト「野村のクラスマ」の画面デザイン。
「野村のクラスマ」の画面デザイン。
パソコン画面を見せながら、デザインについて説明している様子。

すべての根幹にある「共感」という思想

大畑(サステナ博士): 機能性と情緒性、この二つのデザインアプローチを結びつけるものは何なのでしょうか。

徳世さん: それは「共感」だと考えています。クライアントの考え方への共感、そしてその先にいるユーザーがどう感じるかへの共感です。この共感する力は、あらゆる仕事の出発点であり、サステナビリティの根幹にある考え方と同じではないでしょうか。画面の向こうにいる多様なユーザーを想像し、誰もが不便なく使えるように配慮することも、企業の思想を深く理解し、その「らしさ」を表現することも、どちらも「共感」から生まれます。

大畑(サステナ博士): デザインを通じて、環境負荷の削減といったサステナビリティへの貢献も可能なのでしょうか。

徳世さん: はい、可能です。例えば、ウェブサイトで使われる一つひとつの画像の容量を削減することで、サイトを表示するコンピューターやサーバーが排出するCO2を減らすことができます。ただ美しければ良いというわけではなく、美しさを保ちながら最適な圧縮方法を選び、見る人のデバイスに応じて最適な画像を提供する。そうした技術的な配慮も、サステナビリティに繋がる重要なデザインの一部です。

大畑(サステナ博士): 社会的な要請に応えることは、企業にとってどのような価値をもたらすのでしょうか。徳世さん: 社会から求められることに応えるのは、企業として正しい姿勢です。そして、その姿勢を明確に示すことは、社内で働く社員たちが「自分たちの会社はすごいじゃないか」と誇りを持つことにも繋がります。それが組織をより良くしていくポジティブなスパイラルを生み出すのです。

徳世さんがインタビュアーに向かって話している様子

AI時代に人間がデザインする意味

大畑(サステナ博士): 近年、AIがウェブサイトを自動生成できるようになりました。こうした時代に、人間のデザイナーの役割はどう変化していくとお考えですか。

長野さん: AIによって仕事はどんどん効率的になっています。その技術を活用し、私たち人間の知識をAIに提供していくことで、社会全体のウェブサイトのクオリティが上がっていくと良いと考えています。その中でプライムクロスとしても負けないように、さらに質の高いものを提供し続けていきたいです。

長野さんがインタビュアーに向かって話している様子

徳世さん: AIが作ったサイトが本当に最適なのか、その最終的な判断は人間が行う必要があります。AIが出すものよりも質の低いものを人間が出しても意味がありませんから、むしろAIを使いこなしながら、制作物の精度をさらに上げていくことが、今のデザイナーの在り方だと考えています。AIは効率的に「正解らしいもの」を提示してくれるかもしれませんが、クライアントの言葉の裏にある想いを汲み取り、ユーザーの心の機微に寄り添う「コミュニケーション」を設計することは、人間にしかできない領域です。細部に宿る思いやりや温かみこそが、AIが生成したものとの違いを生むのだと思います。

大畑(サステナ博士): 最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

長野さん: 普段、あまり意識せずにウェブサイトを使っていると思いますが、この記事を読んでくださった方は、少しだけ「ここも考えて作られているのかな?」と想像しながら見ていただけると嬉しいです。

徳世さん: ウェブサイトは情報を得るためだけのものではありませんので、ぜひ読み物として、純粋に楽しんでいただきたいです。その中で面白い、楽しいと感じる主観的な思いを大切にすることで、情報はより深く自分の身になるはずです。

大畑(サステナ博士): 機能としての「思いやり」と、情緒としての「人柄」。その両方をデザインで実現していくことの重要性がよく分かりました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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