ホテルの定義をまちへ解き放つ。ホテル カンラ 京都が描く「地域共創」

京都駅に近い東本願寺のほど近くに、2010年に開業したホテル カンラ 京都 。
このホテルの開業時から15年にわたって現場に立ち続けてきたUDS株式会社の近藤直希さんは、日々のホテル運営(A面)と、地域とつながった活動(B面)どちらも同じくらい大切だと語っています。この両面に注ぐ情熱についてお話を伺ってきました。
- UDS株式会社 ホテル事業部 コミュニティ企画担当 シニアマネージャー
- 近藤 直希さん
UDS株式会社 ホテル事業部 コミュニティ企画担当 シニアマネージャー。京都の端っこ生まれ、端っこ育ち、端っこ在住。2010年のホテル カンラ 京都 開業時にレストランのサービススタッフとしてキャリアをスタート。2020~2025年には同施設の総支配人を務める。現在は国内外で15拠点を展開するUDS HOTELSのコミュニティ企画担当。
- サステナ博士
- 大畑 慎治さん(進行役)
サステナ博士。ソーシャルグッドを社会に実装することを目指し、新たな事業や市場を生み出す。早稲田大学ビジネススクールではソーシャルイノベーションのクラスを担当。
O ltd. CEO、Makaira Art&Design 代表、THE SOCIAL GOOD ACADEMIA(ザ・ソーシャルグッドアカデミア) 代表、MAD SDGs プロデューサー。
継承と革新の先に。ストリート発の一杯のレモネード
大畑:
ご用意いただいたこのレモネード、驚くほど爽やかですね。体にすっと馴染み、ごくごく飲めてしまいます。
近藤:
ありがとうございます。これはコロナ禍の真っ只中に提供し始めた思い入れのあるメニューです。
当時は、京都の街中から観光客の姿が消えてしまい、我々のホテル内もゲストよりスタッフが多い日も珍しくなく、先行きの見えない不安なムードが漂っていました。そんな中で、まちの周遊を活性化させるためのイベントに参加した際に、この一杯に出会いました。
このレモネードを作っているのは、元々京都にいた方で、シルク・ドゥ・ソレイユにダブルダッチの演目で出演していたパフォーマーの方なんです。コロナ禍で世界の移動ができなくなって日本に帰ってこられたのですが、アスリート目線の新しいドリンク開発をしようと、国産の無農薬レモンなど厳選した素材で開発されたのがこのレモネードです。カンラのレストランやカフェでも提供しています。

近隣の庭園の梅から生まれた“聴く羊羹”とは?
近藤:
どの宿泊事業さんも、収益、顧客満足度、従業員満足度を重要視しながら、その先に何ができるかを考えていると思います。ホテル カンラ 京都も同様に色々模索をしてきているのですが、その中のひとつの取り組みとして、近隣で廃棄される梅を活用した音源付き梅羊羹「coolis」を商品化して販売しています。
きっかけは隣接する東本願寺の飛地境内地の庭園、渉成園の庭師さんから「廃棄される梅を活用できないか」と相談されたことです。そこで、近隣の方たちと一緒に梅の収穫をさせてもらい、和菓子屋さんにも協力いただいて梅とクリームチーズを使った羊羹を作りました。
大畑:
パッケージのQRコードを読み込むと、穏やかなアンビエントミュージックが流れるんですね。
近藤:
羊羹というプロダクトを五感に当てはめて考えると、見た目、味わい、食感、香りは備わっていますが、音の要素が欠けていました。羊羹を“聴く”ことができれば、全く新しい体験になるだろう──そんな遊び心から、まちの環境音をつけた「音源付き梅羊羹」として企画しました。他にも醸造所にお願いし、梅フレーバーのクラフトビールの商品開発も行いました。
大畑:
同じ渉成園の梅を使っている羊羹とビールのペアリングも楽しそうです。地域の課題が、近藤さんの周りで次々とポジティブな連鎖を生んでいるんですね。

使い捨ての箸は環境に悪いのか?巡る資源と職人技と想い
大畑:
こちらの客室用館内案内POP、実はカンラで使用したお箸を再利用されたものだと伺いました。
近藤:
はい。朝食で使用された竹の割り箸をアップサイクルしたものです。
コロナ禍に、使われなくて廃棄されてしまう野菜をレスキューする取り組みをしていた「エシカル・フード・アライアンス」に出会いまして。その活動に参加して、エシカルやサステナブルな取り組みについて考えていく中で、竹の箸のアップサイクルができるけどまだ事例がなくて、というスタートアップ企業に出会いました。そこで朝食で使った箸を洗浄・加工してもらい、ホテルの案内が見られるQRボードにすることにしたんです。今はそれを全客室に設置しています。

大畑:
そもそも使い捨ての割り箸ではなく、繰り返し使える箸を採用しなかったのはなぜでしょうか。
近藤:
以前は京都の北山杉の間伐材を使用した箸を使っていましたが、割り箸も間伐材活用の視点ではサステナブルであり、職人さんも減ってしまっていることを知って現在の割り箸へ移行しました。
宿泊の場から、まちの「資源と課題」が交差する拠点へ
大畑:
レモネードも梅も箸も、近藤さんのもとには「行き場のない野菜を活用してほしい」「技術はあるけれど素材がない」といった地域からの相談ごとが自然と舞い込んでくるように見えます。
近藤:
いろんな人の話を聞くうちに、ある企業にとっての廃棄物が、別の視点では価値ある資源になると気づいたんです。それ以降、地域の事業者さんに会うたび「どのような廃棄物が出ますか?」と聞き回っていました。そうやって動き回っていると「捨てる前に一度、近藤さんに聞いてみよう」と言っていただけるようになってきました。
大畑:
なるほど、資源を商品に変える技術やアイデアがあっても販路を持たない方が多い中で、ホテルという人が集まる出口を持っているのは強みですね。そういった人と物の交差点としての活動が、マルシェにも繋がったのだと感じました。
近藤:
はい、コロナ禍の自粛期間中に仕入れのやりとりが止まった生産者さんたちに「お元気ですか?」と連絡してみたかったんですが、なかなかしづらくて。そこで、連絡するきっかけとしてマルシェを企画したんです。私はせっかちなので、観光客が激減したホテルの中でじっとしていられないというのもあって、お付き合いのある方から仕入れた野菜やパンを並べて小さなマルシェを始めたんです。
毎月開催していたら次第に近所の方やお隣の東本願寺の職員さんなどがきてくれるようになって。さらに行政の方にも訪れてもらえるようになって、東本願寺前の広場活用の実証実験にお声掛けいただいて参加することにもつながっていきました。
初めはちいさなマルシェでしたが、自分たちから動いてみたことで、地域との接点ができて、広がって、ワクワクする取り組みにつながっていきました。

大畑:
以前、「DIALOGUE」というイベントに参加したことがあります。あのときは、ホテルの中に新しい価値を引き込んでいましたよね。
近藤:
「DIALOGUE」は、客室に工芸やアートを展示した作り手と対話できるイベントで、2018年から毎年開催しています。ホテル カンラ 京都では、2016年の増床の時に金継ぎブースやショップを設けて「工芸」を組み入れてきています。そんな中で、京都を拠点にする工芸ディレクターの方から、「京都は工芸の産地なのにそれをうまくプレゼンテーションできていない」「若手の職人たちが作ったブランドや商品を手にとってもらえる場所がない。つくり手が自分の作ったものをみてもらえるような展示できる機会をホテルでつくれないか」という相談をうけました。そこから生まれたのが、「DIALOGUE」でした。京都府さんの協力も得て形にしていったイベントです。

ホテルの定義を拡大解釈する。従業員満足度から生まれるワクワクの連鎖
大畑:
ホテルの日々の運営をA面、地域とつながった活動をB面としたとき、B面の活動は運営にどのような影響をもたらしていますか?
近藤:
総支配人になった当初は、おもてなしを極めるといった宿泊事業者としての価値提供(A面)に重きを置いていました。しかし新型コロナが転換期となり地域との繋がりが育まれ、B面の活動が少しづつ増えてくる中でスタッフにとってもいい影響になっていると感じました。シフト制のルーティンワークから離れ、外で一緒に梅を収穫したりマルシェの店番をするなど、スタッフ同士のコミュニケーションの機会が生まれて、従業員満足度の面でも意義を感じました。

――ホテルを単なる宿泊場所ではなく、地域の拠点として拡大解釈していく。そうすれば、”世界がワクワクするまちづくり”はもっと予測不能に加速することでしょう。